パラレル

□甘い戯れ
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――どれくらいの時間が経ったのか。
残っていたポッキーも口中を嬲る舌にすっかり溶かされ、千鶴の息が上がってへにゃりと総司の胸に倒れ掛かる。
総司は笑って抱きとめると、この夜三度目の「ごちそうさま。」を千鶴に向ける。
千鶴は総司の胸板に顔を埋めてしまって表情が見えない。けれど突然ギュッと抱きしめられ、くぐもった声で「……総司さんは、意地悪です。」と小さく聞こえた。
総司は千鶴の頭に顎をのせて「うん。」と答える。

自覚はあるし、今夜は寂しい思いもさせてしまった。そういえば、千鶴から抱きついてきてスキンシップをねだるなんて、珍しくも嬉しいこともあった。(『ねだってません!』千鶴談)
これはじっくり時間をかけて、僕の愛で身も心もトロトロになるまでご奉仕しないと。
それがせめてもの償いだ。彼女から求められた、男としての責任だ。

総司は独りごちて納得したように一つうなずくと、
「千鶴? ごめんね。」
彼女を抱きしめる腕に力を込めて、耳元で囁く。
「いい子で待っててくれた君にとびきりのご褒美をあげるよ。明日の朝までまだ時間はたっぷりあるから、期待してて、ね。」
千鶴が腕の中で震えたのがわかった。
―― 一瞬の後。
「け、結構です! こ、こうしてくださるだけで私は十分ですから!」
と、若干青ざめた顔をあげて、ぴしりと言われた。
謙虚なのは千鶴の美徳の一つだけれど、今はそんなもの横に打っちゃってくれて構わない。
「いいんだよ、千鶴。……可愛いね。」
再び唇を寄せながら囁くと、千鶴の顔が赤みを帯びながら青ざめる。
総司はチュッとリップ音をさせて軽いキスをすると、千鶴を抱きかかえて勢いよく立ち上がった。

「ひゃあ!」
突然の行動に、千鶴は慌てて総司にしがみつく。
「ど、どうするんですか。」
「ん? そりゃ、ベッド……。そういえばお風呂もまだだったね。」
答えながら総司の足はリビングダイニングの出口に向かう。
「総司さん! あ、あの明日も朝早いんですよね。今日はもう、寝たほうが……。」
腕の中の千鶴はしがみつきながらも、総司の思考の転換を図ろうと必死だ。
そんな千鶴を可愛い可愛いと頬ずりして、なだめるように悪魔は囁く。

「そうだね。でも、仕事してたせいか気が高ぶってて目が冴えてるし……。明日の朝、寝坊しないように、もう今夜は寝ないで出社するほうがいいかもしれない。」
「そ、そんなことダメですよ!」
「大丈夫だよ。早朝会議の後は地方のクライアントへ出向く予定だから、新幹線とかで寝られるし。」
(総司さんのこともですが、私の身が持ちません!!)
「そういえば、今日、というかもう昨日か。11月11日だったね。ポッキーゲームといい、千鶴から誘ってくれることなんてほんと滅多にないもんね、僕、嬉しいよ。」

――上機嫌な総司の耳には、最早何を言っても届きそうにない。
千鶴は明日の自分の仕事の予定を考えて、有給の申請って当日でもいいのかな? などと考えながら、ぎゅっと総司の服を掴む。
連れ去られる肩越しに、テーブルの上に開いたままの赤い箱が見えて、慣れないことはするもんじゃない、と自分の行動を悔やんだ。しかしそれも後の祭り。

そもそも今日というツイてない日は、甘い痺れで始まった。そして終わりもまた甘やかな夢で締めくくられるのだろう。
千鶴は苦笑しながら、総司の首筋に顔を埋めて小さくキスを落とした。



(おわり)


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