パラレル

□PussyCatはお好き? 第1回
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沖田は普段、どちらかと言えば独断で動き、そうでないときには信頼のおけるほんの数名の仲間とだけつるんでいるようなタイプだ。人を惹きつける容姿に女性社員の人気は高かったが、女性に関しては特に、当たり障りなくどちらかと言えば疎遠に接していた。
そんな沖田が指導社員として初めてあたったのが千鶴だった。当初、本人は大いに面倒がり、周りもあの沖田に務まるのかと心配の声を上げたが、予想に反して千鶴は沖田のお気に入りになった。

千鶴はいかにも女性らしい柔らかな優しい見た目と言動に加えて、芯が強く根性があった。
礼儀正しく、沖田のひょうひょうとした態度にも気後れすることなく、誠実に向き合う。曇りのない千鶴のまっすぐな姿勢は、沖田のひねくれた態度を徐々に軟化させ、立派に指導社員としての業務を遂行させた。

千鶴の柔らかい物腰ながらも筋の通った誠実な態度は、人間関係にも仕事の上でも上々に作用した。二人はあるブランドの営業についているが、同僚にも営業先にも好意的に対されて、二人がタッグを組んだ当時の営業成績が殊の外よかったことは、社内でも評判になったほどだ。
もともと仕事のできる沖田に、強力なサポートがついたようなもので、沖田が指導社員としての業務を終えた後の辞令でも、千鶴は沖田のチームに配属された。


そんな千鶴が沖田と別のチームに配属転換されたのは、この秋の異動のとき。沖田が駄々をこねるかと思いきや、「ま、いいんじゃない。」とあっさりしたものだった。
千鶴は一抹のさみしさを感じたが、違うチームとはいっても同じブランド内であることには変わりなく、席が一列離れるだけ。育てた後輩の巣立ちを温かく応援してくれたのだ、と自分を納得させた。
だがしかし、チームが離れるとやはり接することや会話も激減した。
だからこそ千鶴もこんな昼休みの機会を逃さず、沖田に話しかけるようになっていた。

「まだお仕事ですか?」
「ん〜、いや。クリスマス向けの新規品を頭に入れとこうかと思ってさ」
沖田の手には、自社のこの冬のカタログがあった。
女性向けアパレルメーカーなので、主力は当然冬物のアウターや、クリスマスや年始向けのドレスなどもある。しかし、沖田が今開いているのはインナーのページだった。
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