パラレル

□PussyCatはお好き? 第1回
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日本人ではありえないような等身の白人美女がクールに佇んでいるかと思えば、豊満な身体に魅力的に微笑む黒髪の女性もいる。インナーのページには、千鶴のような細身タイプのモデルさんは適していないようだ。

沖田はそれらのページを恥ずかしげもなく凝視しながら「このカラー展開でいけるのかなぁ」などと、ぶつぶつ言っている。
別に露出の多い女性を凝視しているからといって、これは仕事だ、当の沖田の様子からもそれは一目瞭然だ、しかし、そこは微妙な乙女心というか、やはりなんとなく沖田が下着姿の女性を見ているのは、複雑だった。
そっと自分の胸に手を当ててその凹凸具合を確かめてしまう……。

「あれ?ウチこんなのも作ってたんだ」
パラリとページをめくった沖田が、突然あげた声に千鶴はびくっと反応する。
「?どうしたの? 千鶴ちゃん。」
沖田は千鶴を名前で呼ぶ。
初めは新入社員にむけた侮りのようなものだったが、今やそれは沖田なりの親愛を表す呼び方だった。
千鶴もそれがわかったからこそ、今では「雪村です」と、訂正もしなくなった。

「い、いえ。なんでも。『こんなの』ってなんですか?」
千鶴は自分のサイズと沖田の視線の先の美女たちについて長考していたのを誤魔化すように沖田に返事をした。
沖田は千鶴の態度に面白いものを見つけたような含みのある顔で口の端を上げながら、手にあるカタログのページを指し示す。
「これ。……うちのブランドイメージにしては、珍しくない?」
沖田の示す先はやはりインナーのページだった。しかしそこに写るのは猫。――いや、猫をかたどったインナーを身につけ、蠱惑的に微笑む美女たちだった。
「! これっ! うちのチームが出したんです!」
「え? そうなの?」


千鶴たちの所属するブランドはナチュラルスタイルをメインテーマに据え、麻やオーガニックコットンなどの質が良く、どちらかと言えばシンプルなデザインのものが多い。
そんな中でキュートでキッチュなこの商品はたしかに異例ともいえる。
「おっしゃる通り、珍しいんですけれど。クリスマス向けというイベント関連の品ですし、今回は『遊び心』をコンセプトに、なにか目を引く品を出そうということになって」
企画から持ち込まれた時には渋い顔をしていたチームリーダーの斎藤も(沖田の同期だ)マーケティングの結果や、実際の購入者にあたる千鶴たちの「かわいい♡」の声を受けて、GOサインを出した。

「なので、私の今期の一押しです! デザインと色も猫の種類を意識して展開してるんですよ。チンチラのホワイト、アメリカンショートヘアのシルバー。それと黒猫のブラックです。かわいいですよね! きっと売れます! 頑張って売ります!」
千鶴は自信満々の体で営業よろしく沖田相手に勢い込んで売り込みをする。
千鶴の勢いに押されて黙って聞いていた沖田は、千鶴の淹れてくれたコーヒーに口を付けながら「そうなんだ……」とカタログに目を戻す。
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