パラレル

□PussyCatはお好き? 第1回
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「たしかに、面白いデザインだね。胸元に猫耳をあしらって……。しかも尻尾まで付いてるのかぁ。……うーんでも、……どうなの? 売れるかな? これ」
千鶴の自信に満ちた売込みに対し、沖田の反応はあまり良くない。
千鶴は慌てて言い募る。
「かわいいじゃないですか」
「うん。かわいいのは認めるけど、これってさ、結局人に見せるためのものでしょ。普通は彼女が着て彼氏に見せるわけだよね。そんなの見て喜ぶ奴いるのかなぁ」
「! 見せるって……。」
「だって、自己満足で着たりしないでしょ。……ああ、逆もあるか。彼氏がプレゼントするのかもしれないね。『これ着てよ』って。」
沖田は小馬鹿にするようにカタログのページをひらひらとさせる。
「……かわいいものを身につけるのは、女の子なら嬉しいと思います。」
「まあ、そういう需要もあるとは思うけど、そんな変態、ウチのお客さんにいるかなぁ。」

……なんという言い草か。沖田の言うこともなんとなくわからなくはないが、千鶴は自分のチームが出した商品にダメ出しをされて、ムッとしてしまう。
「! 『遊び心』ですから! 『変態』なんて、そんな言い方はないと思います。」
千鶴の強気な態度に、沖田は二つ目のクッキーをつまみながら応戦する。
「……そう? じゃあ、千鶴ちゃんは彼氏にこれ着て、って言われたら着てみせるんだ」
沖田の言い出した斜め上の発言に千鶴は思わず絶句した。
「『これ着て、猫みたいに『にゃあ』って鳴いて僕にすり寄ってみて』って言われたらやるんだね?」
内緒話をするようにわざと顔を近づける沖田に、千鶴は囁かれた耳を押さえて後じさった。沖田がさらに畳み掛ける。
「自信満々で売り込んでるんだもんね。……僕も見てみたいなぁ。千鶴ちゃんの『遊び心』ってやつ」
千鶴は顔が熱くなるのを感じて両頬を手で押さえ、なんとか反撃しようとするが、うまく言い返せない。
「そ、そんなこと……。沖田さん、セクハラです」
やっとのことで振り絞ったが迫力に欠ける。
沖田は千鶴の発言を受けて、眉を顰めムッとしたように言う。
「……なんでも『セクハラ』って言わないでくれる? この商品の需要と売込みに際しての活用方法についての話でしょ。」


沖田の冷えた声は千鶴に、去年あった出来事を思い出させた。
去年、社長である近藤が、側近の女性の結婚問題を公の場で話題にしたことが、セクハラだと社内で揶揄されたのだ。
詳しくは知らないが、沖田は近藤をとても慕っている。
そのため沖田は憤慨して、社内の雰囲気などお構いなしに、噂の出所を突き止めて糾弾しようとした。
見かねた上司の土方が注意すればますます悪化し、常に不機嫌な態度に同期の斎藤や藤堂、そして千鶴も困り果てた。
結局、当の近藤が「自分も悪かったんだ、これからは気をつけるよ。心配してくれてありがとうな、総司」と大らかな笑顔で沖田の肩をたたけば、沖田は苦笑して「はい」と答え、やっとのことで収まった。
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