パラレル

□PussyCatはお好き? 第1回
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しかし、それ以来『セクハラ』という単語に、沖田は冷たく反応するようになった。
沖田のNGワードに触れてしまったことに気づいたが時は遅し。

沖田はますます冷めた態度でカタログを見やりながら言う。
「こんなの。彼氏に見せるか、彼氏が着せるかどっちかでしょ。それを話してただけなのに『セクハラ』ね。……これじゃ軽口もきけないなぁ。」
――反論するのはまずい気もするが、それでもこれだけは、と千鶴は答える。
「それは、そうですが。……でも、私の彼氏とかって話は、その……。そんなのないですから。」
「……ふーん。君の言いたいことはそこ?」
千鶴の思わぬ発言に沖田はカタログをいじっていた手を止め、目を見開く。そして次には面白そうに眼を細めて千鶴の顔を覗き込んだ。
「そ、そうではなくて……。」
千鶴は視線を反らし、手をもじもじさせながらなんとかこの場を収めようとした。

「わ、私がこれを着てどうするかではなく、お客様がかわいいと思って買ってくださるかどうかです。私は、着てみたらかわいいと思いますし、着せて喜ぶ人もいるのではないか……と、思います。だから! 売れます!」
最後は相当無理やりだったが、千鶴は己のチームの自信作をキッパリと推した。そうでなければ仕事の意味がない。
沖田もそれは感じたのか、「そう……。」とだけ言い、コーヒーに口をつけた。

しかしこれで引き下がらないのが沖田という男だ。やりきった感の千鶴に「ならさ……。」と、沖田が言い出したことはとんでもなかった。
「これ、全部売ってよ。君の担当箇所の規定数でいいからさ。」
「は? え?で、でも。」
「自信、あるんでしょ。見事に売り切ったら、僕の『セクハラ』発言を謝罪するよ。」
そんなことを言われても、はい、わかりました、と返事はできない。
黙ってしまった千鶴の態度を逆手にとり、沖田はいけしゃあしゃあと続ける。
「……できなかったら、そうだなぁ。なにかペナルティを考えておくよ。」
「そ、そんな!」
「売ればいいんだよ。かわいいものを身につけるのは嬉しいんでしょ。君が一番お客さんに近い立場なんだし、できるよね? ……それともこんなのやっぱりそんなに売れないかなぁ」
「! 売れます! 売ります!」

――まさに売り言葉に買い言葉。

千鶴の戦いの幕開けを合図するように、昼休み終了のチャイムが、高らがにフロアに響いた。



≪第2回に続く≫

次ページにお話のイメージ補足の解説がございますが、読まれなくても大丈夫です。
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