短編

□黒×黒
1ページ/1ページ

「お願いします! これ、レクター様に渡して下さい!!」

 なんで僕が…。そう思いつつもユインは、突き出された恋文らしき、可愛いらしい薄紅色の封筒を受け取ってしまった。

 その途端、パッと安堵の表情を浮かべた名も知らない少女は、ぺこりと頭を下げて走り去ってしまう。

 よくある事だ。放課後、全く知らない少女に、ユインは裏庭の隅へと呼び出された。

 ただ、レクターの親友というだけで。

 こんなもの渡されても、迷惑なだけだ。だいたい渡したいなら、自分で直接渡せばいいのだ。

 そんな勇気すらないなら、告白なんかする資格はないし、そんな子に譲る気もない。

「僕だって、言えるものなら言いたいさ…」

 ポソリと口をついた本音に、拗ねた表情になってしまう。

 キョロキョロと周りを見渡し、人影がない事を確認して、手にした封筒を中身ごと破る。

 それは、すぐ近くにある焼却炉に放り込んだ。まだ火が燻るそこは、すぐに灰に変えてくれるだろう。

「次は、自分でちゃんと言いなよ」

 呟いてユインは、その場を後にした。




「ヒュ〜やるね、お前の親友」

 一部始終を上階の廊下の影から見ていたコイルは、愉快そうだ。開(あ)いていた窓から、よく透る少女の声までが、しっかり聞こえてしまった。

 恋文の宛先であるレクター自身が、その現場を、友人コイルと目撃したのは偶然だった。けれど親友のユインが、自分への恋文を押し付けられている事も、それをレクターには渡さず捨てている事も、ずっと前から知っていた。

「可愛いだろ、あれ?」

「…どういう感覚なんだ、お前」

 コイルは、呆れた目をレクターに向ける。

「あいつは、俺が好きなんだよ。――ああ、勿論俺もね」

「はあ!?」

 然り気なく明かされて、コイルの声は思わず裏返る。

「いつ伝えてやろうかと考えると、楽しくて」

 くつくつ笑うレクターは、普段とても爽やかな好青年だ。見た目も、それを裏切らない美形で、皆それらに騙されて、特に女子なら恋に惑う。

 レクターの本性を知る者は少ない。たまたまコイルは知ってしまったけれど、他には巧みに隠している。恐らくユインも知らないのだろう。じゃなかったら、仮に男もいけたとして、こいつだけは絶対嫌だと、コイルなんかは思う。

 焼却炉に立ち尽くし、燃え尽きる恋文を悲しそうに睨み付けるユインが、共通の友人としては気の毒になる。

「早く言ってやれよ、周りが迷惑だから」

 さあなとレクターは、笑った。






[完]


二次から一次へ改稿、加筆
2014/04/22


《初出》
時期は不明
たぶん2006〜2008年くらいで、二次ジャンルでのMMで配信した作品を、一次に修正加筆したものです。

原文は、今も二次ジャンルのサイトにも置いてます。



.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ