長編

□運命の出会い
1ページ/3ページ

 父に連れられて、初めて少年が皇城を訪れたのは、十三歳の終わり、十四歳の誕生日直前の初夏のことだった。

 十四歳になってすぐに騎士団へ入るため、挨拶に来たのだ。

 父は騎士団の団長で、着いて間もなく部下らしい人に捕まってしまい、手持ち無沙汰の子供は退屈していた。

 けれど初めての皇城は、好奇心を刺激するで。

 父の様子を伺うと、まだ話は終わりそうもない。少しくらいならいいかなと、少年は黙ってその場を離れた。

 今までいた場所は、訓練場や団員寮などを備える騎士会館と呼ばれる本部の一角で、目隠し代わりの垣根を抜けると、皇城の立派な回廊に直結している。

 回廊へ足を踏み入れる少年を、止めるものは誰もいない。

 そもそも皇城への立ち入りは、外門で厳重にチェックされているから、身元の不確かなものは最初から入れないのだ。

 小さな子供用の剣を腰に差した、身なりのいい少年が、目をキラキラさせながら歩く姿は、皇城勤めの者達にとっては、微笑ましい光景らしく、見守る大人達は忍び笑いを漏らす。

 そんな視線にも気付くことなく更に歩くと、美しい庭が横目に見えてきた。

「わ」

 思わず声を上げる。青々と繁る木々、咲き乱れる沢山の花、トンネルのように伸びる甃の小道。

 子供なら誘われてしまう風景が、そこにあった。

「秘密の抜け道みたい」

 小さく独りごちて、そろそろと小道へ足を踏み入れると、カツンと、ブーツの底が甃にあたり音をたてる。

 そのまま小道をどんどん行くと、噴水のある小さな広場に出た。そこには可愛らしい白石造りの東屋もある。

 花の咲く木々に囲まれた、美しい場所。

「わあ…」

 噴水の前に立って辺りを見渡していると、もう一つ別の小道があることに気付く。

「あれは、何処に行くのだろう?」

 子供の豊かな好奇心は止まらない。躊躇う事なく、そこへ向かおうとした。

 すると小道の先、緩やかに曲がる向こうから、パタパタと、軽い足音が聞こえてくる。

「誰か来る…」

 少しだけ緊張しながら待つ。

「あ!」

 自分と同じくらいの歳、背格好の少年の姿が見えた時、思わず声を上げてしまった。

 後ろを振り返りながら走って来たのは、黒髪の少年だ。声で初めて自分以外の存在気づいた少年は、大きな紫の瞳を、更に見開いた。

「そんなに驚いたら、瞳が落っこちそうだね」

 冗談を言ってみたけれど、黒髪の少年は警戒しているのか、ただジッと見返すだけだ。

「…誰?」

 どのくらい見詰め合ったの、警戒の滲む声に、努めて精一杯の笑顔をつくる。

「僕はレン・ルー。レン・ルー・キングス。父は騎士団長のサン・ルー・キングス。一緒に来たんだけど、僕だけ暇になっちゃったから、皇城の見学してたんだけど…君は?」

「……ロシェ・リリ」

 騎士団長なら知っている。それなら警戒することもないだろうと思いつつ、咄嗟に本名を入れ替えた偽名で答える。

 別に答えなくても良かったのだけど、あまりにも無邪気に尋ねられたから、無視するのも心が痛む。

「ロシェ・リリかあ。綺麗な響きの名前だね、君にぴったりだよ」

 黒髪に紫の瞳は、珍しい。それが皇城にいれば、普通は第六皇子リリ・ローシェを連想するだろうに、彼は疑いもしない。

 気付かれるだろうか、皇子だということに。

 少し緊張する。

 目の前にいる少年は、皇城では一度も見たことのない子供だ。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ