長編
□運命の出会い
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レン・ルーは、茶金色の髪に青い瞳で、いつか見たことある騎士団長に似ている。今は太陽のような笑顔を浮かべているけれど、大人になったら父親みたいに、精悍な顔立ちになるのかもしれない。
キングス家は、下級貴族ではあるけれど、現皇帝が実力主義で、現当主のサン・ルー・キングスは、騎士団長にまで上り詰めた。
歴代の騎士団長で最強と言われるサン・ルーが、団長職をあと五年も努め上げれば、キングス家は中級貴族へ引き上げられるだろうと、噂されている。
レン・ルーの姿を眺めていくと、腰に剣があることに気づく。
「ねえ、それ使えるの?」
指差すリリ・ローシェに、レン・ルーは不思議そうに首を傾げる。
「それ?」
「その…剣」
「ああ! うん。俺、もうすぐ騎士団に入って見習いになるんだ」
「ええっ! 君…いくつなの?」
リリ・ローシェは純粋に驚いた。印象的な大きな瞳が、また真ん丸になっている。
同じくらいの少年だけれど、レン・ルーには可愛らしく見えてしまう。
「今は十三だけど、もうすぐ十四になるよ」
「――同い歳だ! へえ…、凄いんだね」
純粋な賛辞に、レン・ルーは照れくさそうに頭を掻いた。
リリ・ローシェの中での、レン・ルーに対する警戒心は、いつの間にか無くなって、ただ感心するばかり。
何故なら、リリ・ローシェは剣を使えない。過保護すぎるくらい過保護な家族達が、危ないからと持たせてくれないのだ。
お付きの侍女達も『皇子様が剣を持つ必要なんてありませんわ』とか言うし、頼みの綱のもシア・ルーラも、それに賛同してしまう。
第一皇子ダリエル・シャンと、第三皇子ロカ・アーシャだって、剣の名手と言われているのに。
理不尽なことに、リリ・ローシェだけは駄目だと言われる。でも本当は、剣を使えるようになりたかった。
「レン・ルー!!」
真剣な表情のリリ・ローシェを、レン・ルーはキョトンと見返す。
「なんだい?」
「僕に、剣を教えてくれないか?」
その口が発した台詞に、レン・ルーは吃驚した。まだ未熟者なのに、人に剣を教えるなんて。
けれど、リリ・ローシェは本気そうだ。唇をキュッと引き結び、まるで睨むようにしてレン・ルーを見上げる。
「…いいけど、怪我をしても知らないよ」
リリ・ローシェの手は傷一つなく真っ白で、剣なんか、持ったことすらなさそうで。
けれどリリ・ローシェは、レン・ルーの心配をよそに、意気揚々と頷いた。
「やっ、えい」
それから暫く広場には、リリ・ローシェの掛け声が響いた。
「もっと、脇をしっかり締めて」
「うん! えい」
リリ・ローシェは真剣だ。そしてあまりにも必死で、一生懸命だ。けれど徐々に、剣を振る腕は重く鈍くなっていく。
「え、えいっ、やあ」
我慢して、それでもなんとか振っていたけれど、間もなく、息も絶えだえにがっくりと膝をついた。
両手も地面について、身体を支えている。汗をぐっしょりかいて、ハアハアと苦しそうに呼吸するリリ・ローシェの背を、レン・ルーは労るように擦(さす)ってあげる。
素振りは、ほんの五分も続かなかったのだ。
レン・ルーは思う。彼は、なんて自分と違うのだろうと。自分なら、きっと半日だって、苦もなく続けていられるだろうに。
この体力のなさでは、きっと剣を振るのに向いていない。それだけは、はっきりと判る。
「えっ…とロシェ・リリは、この皇城に住んでるの?」
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