長編
□騎士誕生
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リリ・ローシェは、黙りこんでいるレン・ルーを観察する。
眉間に皺を寄せ、何かを考えているようだ。驚かせようと思って、事前の挨拶もさせなかったし、詳しい説明を一切しなかった。
――怒っているのだろうか。
「聞きたいこと、あるでしょう?」
リリ・ローシェが促すと、レン・ルーは逡巡を見せながらも口を開く。
「どうして、ぼ…私を選ばれたのでしょうか?」
きょとんと、リリ・ローシェは首を傾げる。
「お前が守るって、言ってくれたから」
リリ・ローシェの真っ直ぐな瞳に、レン・ルーの胸はドキリと高鳴った。苦しくなる胸を押さえながら、震える声で問いかけた。
「もしかして、あの時の約束…?」
レン・ルーは、あの指切りを思い出していた。
「覚えてた?」
「はい」
――良かった。
心から嬉しそうなリリ・ローシェの声は、男性にしては高めで甘く、浮かべた笑顔は、まるで小さな花が咲いた時みたいに控えめで、それでいて美しく、また可愛らしい。
思わず見惚れてしまっているレン・ルーをよそに、リリ・ローシェは、この二年半のことを思い返していた。
レン・ルーとは、この二年半一度も会えなかった。だから忘れられているかもという不安も、少しだけあったのだ。
けれどレン・ルーは覚えていた。それがリリ・ローシェは嬉しかった。
リリ・ローシェが、どれだけこの再会に焦がれてきたか。
『まるで恋をしているみたいですね』
そう侍従の少年に、からかわれたこともあったくらいで。
本当なら、レン・ルーが騎士見習いになった二年半前、騎士団の詰所へ会いに行こうと、その日を楽しみにしていたのだ。
それが何故か、レン・ルーから剣を習おうとしたことがバレていて、詰所付近への立ち入りを禁じられてしまった。
暫くは気落ちして、ションボリするばかりで。
この頃には既に、リリ・ローシェの騎士候補も、何人か用意されていた。それも皆、家柄のいい高級貴族の青年ばかり。
でも、特に興味をひく者はいなかった。却って、あからさまなアピールに辟易していたくらいだ。
けれどある時、ふと思い付いた。もしレン・ルーが、自分の騎士になってくれたなら。
それは、とても素晴らしい考えに思えた。自分の聖騎士になれば、毎日だって会えて、きっと好きなだけ一緒にいられるはず。
それを後押しするように、間もなく噂が聞こえ始めた。
『団長の息子の見習いは凄い』
『今年入った者の中では飛び抜けて、断トツの強さだ』
『きっと物凄い騎士になるだろう、将来が楽しみだ』
その名前がレン・ルー・キングスだと知った時、リリ・ローシェは飛び上がって喜んだ。
そんなに強いなら、自分の騎士に出来るに違いない。
幸いキングス家は貴族だから、身分の問題はない。位は下級だけれど、過去に例がないわけじゃないし、父である現皇帝は実力主義だ。
リリ・ローシェは意気揚々と、皇帝の元を訪れた。
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