〜真珠ひとしずく〜破天荒三人組と新選組の時空奇譚 壱
□8話 まさかの幕末バレエ到来
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時が過ぎ 交われば
少しずつ 少しずつ 変わってゆくもの
その小さな積み重ねが やがて糧となる―――
〜* 〜* 〜* 〜* 〜*
「総司ぃぃ!不琉木ぃぃ!!待ちやがれぇぇぇー!!!」
屯所中に、土方の怒号が盛大に響き渡る。それと共に聴こえる、バタバタという忙しない足音。
「またやってるよ、あの二人。っとに、土方さん相手によくできるよなー」
平助が呆れたようにそう言う傍らで、和輝と和は遠慮の欠片もなく大爆笑。
「名コンビだよな、あれ。最強…いや最凶か」
「あははは。あの絶妙な連携プレイなに」
「こんび?ぷれ…?」
三人がここに来てひと月ほどが過ぎていた。夏真っ盛りだ。
そして、最近よく見られる光景がこれだ。土方としては災難の元種が増えて泣きたいだろう。
そして、この二人に止める気が更々ないのも酷いと言えば酷い。
沖田と不琉木。この二人は決して性格が似ているわけではない。
だが、こういう真面目な人をからかうところはかなり意気投合しているらしく、最近ではなにかと作戦会議を陰でしているようだ。
しかも悪戯に関しては息もぴったり。そこの思考回路は同じなのだろう。
当初はなんとなく虫の合わない二人かと和輝や和は感じていたが、どうやらそうでもなかったらしい。
「って、こっち来やがったし」
「待ちがやれぇぇー!!」
「「やだ☆」]
三人の横を突風が駆け抜ける。
「不琉木君、よろしく」
「らじゃー☆」
沖田と不琉木は途中で素早く別れると、それぞれ別方向へ逃げてゆく。
「?!不琉木、どこいくつもりだよ!」
「ひーみつー☆」
あろうことか、不琉木は塀の近くの木を器用に登ると、そのまま屯所の外へ出て行ってしまった。
平助は驚いたようだが、例の二人は見慣れたもの。
「おい、いいのか?」
「「むしろ止めても無駄」」
初めて外出許可が出て以来、三人の中で最も自由気ままに屯所を出入りするようになったのは言うまでもなく不琉木だった。
それも、門から出入りすることは殆どないと言って良い。
「あーあ、こりゃ日暮れまで戻らないな」
「うん」
「おい、不琉木のやつ見なかったか?」
「あ、左之さん。あいつなら今、そっから出てったぜ」
「またか。ったく、すばしっこい奴だな」
「なんか用でもありました?」
和が聞けば、原田は苦笑し肩を竦めつつ答える。
「槍の稽古っつーか、またひと試合交わそうかと思ったんだけどよ。上手いこと逃げられたな」
「うへー、不琉木の奴、二重に逃げてたのかよ。すげー奴だな」
呆れを通り越して感嘆の声を上げた平助である。
器用と言えば器用なのだろうが、あれは褒めて良いものなのかどうか。
「気まぐれだからな、あいつは」
「うん、突拍子もないことなんてしょっちゅうだし。稽古、嫌がってるんですか?」
「いや、そうじゃねぇよ。ただまぁ、わかりやすくはあるな。気乗りしなけりゃ姿みせねえし、俺の気配探ってやがるしな」
まだ付き合いは短いが、不琉木が自分の欲望や本能に忠実な人間だと言うことを原田は悟った。
また、自分がやりたいように遠慮なくしてのける人間だということも。
それが証拠に、毎日毎日屯所内外を自由に飛び回っては好きなように過ごしているし、「動きづれぇ!!」と借り物の着物を自分仕様に改良している。
今の不琉木の恰好はと言えば、上着の袖をまくってたすき掛けし、また袴の裾も沖田のように縛って動きやすくしているという、まさに不琉木らしい格好。
おまけにこちらがなに考えてるか、そういう気配にも敏いときては苦笑するしかない。
「あいつ、随分槍の扱い上手くなって来たぜ?もう隊士と試合させても問題ねぇな」
「マジで?」
「早」
「ああ、むしろ油断すればやられんのはこっちだしな。しかもあいつ、基本を掴んだらあっというまに自分のものにしやがった。
それこそ型や流派なんぞまるっきり無視だ。だが、十分実践で通用するだろ」
「へー、なんか土方さんみたいだなー」
まるで自分事のように誇らしげに言っている原田であるが、槍に関してそれがお世辞でも誇張でもないと知っているのか、平助は素直に感心する。
「なんで土方さん?」
「土方さんの剣術もさー、あれ、我流なんだよなぁ」
「土方歳三流ってな」
「へぇ。まぁあいつも形に頓着しないからな。似てるっちゃ似てるのか」
「たしかに。いろいろ器用っていうかさ。そういうとこ、羨ましい」
十番組組長に褒められるってどんだけ、と些か驚いた和と和輝だが。
けれど、数年来の付き合いである不琉木ならそれくらい朝飯前と、やはり納得している現在である。
自分がやりたくないことはやらず他人に指示されるのを嫌い、いつでもどこでも己を貫く不琉木は、器用の一言で片づけるには足りない人間だ。
本人は隠しているつもりはないのだろうが、まさに能ある鷹は爪を隠すが如し。まだまだ二人も知り得ないものを持っている気がする。
少し羨望を滲ませて和がそう言えば…
「なんだ。なんか悩みでもあんのか?」
「え?」
と、原田が聞いてきた。
まさかそこを聞き返されるとは思っていなかったのは和(のどか)本人。彼女としては何気なく呟いただけだったのだ。
一方、隣の和輝は内心で「やっぱ鋭いな」と秘かに原田に拍手を送っている。
「んー…なんかあたしは、いろいろ余計なこと頭でごちゃごちゃ考えちゃうので。
それが邪魔して素直に身体が動かないっていうか。まぁつまり、飲みこみ悪くて不器用――」
「…そんなことは、ないのではないか」
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