〜真珠ひとしずく〜破天荒三人組と新選組の時空奇譚 壱
□9話 禁門の変、勃発
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時は移ろい 今この時も歴史は動いている
そこに生きる者達は ただ
明日を見つめて 今この時を生きるのみ―――
〜* 〜* 〜* 〜* 〜*
「我ら新選組、出陣する!!」
「おおー!!!!」
屯所中に近藤の威勢のいい声が響き、それに応える形で男たちの雄たけびが耳をつんざく。
そして、ぞろぞろと門から浅黄色の一行が出て行く様を、三人は眺めていた。
これだけ浅黄色が揃っていると迫力満点だ。
「結局、なにがどうなってどういう状況なわけだ、これ」
「さあ…それにしても、近藤さんってほんとに局長なんだな」
「たしかにな。いつもいつも温厚でそんな雰囲気微塵もないから忘れそうだ」
そう言い合う和輝と和(のどか)であるが、なにげに失礼なことを言っている自覚があるのかないのか…そこは想像にお任せする。
「いや、こういうもんだろうぜ。普段睨みを効かせるのはサブで、一番頂点の人間はいざって時に動くもんだろうがよ」
不琉木が珍しく真面目に応えている…とは思うなかれ。
言葉より何より、その表情は傍観者として大いに面白がっている者のそれだ。
「そういうもんか。にしても、なんか火急の事態って感じだったな。今って何年の何月だ?戦なんてあったか、小蔵」
「確か元治で、池田屋事件のあとだろ。うーん…なんかあった気がするけど……」
「長州がどうのっつってたな。確かそこらへんの藩の間でいざこざがあったはずだぜ」
所謂お受験勉強などとは無縁で生きてきた三人は、それこそ歴史の教科書丸暗記などしているはずもなく。年表の丸暗記がどうした精神だ。
「あ、思いだした。多分、これ、禁門の変じゃないか?」
頭の中の引き出しを片っ端から引っこ抜いていた和が、そうだと思い出す。
「ああ、なるほどな。それか」
「まぁ、『禁門の変』っていう名称自体はもっと後世のものだろうけど」
一方、門のところでは…
「あーあ、俺も行きたかったなー。何もしないで留守番とか、退屈すぎ」
「ははは。まったく、土方さんも気にしすぎなんだよね。僕は平気なのに」
池田屋事件で負傷した平助と沖田が、今回の出動に参加できずに愚痴を言っていた。
「藤堂君は、その怪我さえ治ればまた機会がありますよ」
そしてその隣で、山南が自嘲気味に呟き、沖田は「まずい」と咄嗟に思った。
近頃の山南は自暴自棄な発言が多く、こういう空気が流れた暁には決まってなんとも居た堪れない雰囲気になるのだ。
山南のせいとは一概に言えないが、正直、気が滅入る。
さて、どうやって話を逸らそうか…沖田は思考を回転させる。
「それに比べて、私は――」
「山南さーん!」
「……土浦君?」
唐突に、背後から呼びかけられ山南が振り向くと、用があるとばかりに和輝が手を上げ声を若干張り上げていた。
「またちょっと教えてほしいことがあるんだけど今良いかー?」
「……仕方ないですね。では」
よく通る大きな声で呼んでいる和輝の元へ、山南がやれやれと苦笑しながら歩いて行った。
それに沖田は内心で安堵する。偶然とはいえ、助かった。
近頃、屯所内では山南と和輝が喋っている光景が良く見られる。おそらくは和輝の方から絡んでいるのだろう。
「平助、彼に助けら・れ・た・ねっ」
「ぐへっ、何すんだよ総司!」
肘で腹をどつかれた平助が抗議する。
その時、目の前を素早く一つの影が通り過ぎた。
「?!……って、不琉木!どこいくんだよ!!」
「さぁな☆」
「さぁなって、おい!今日あんま出歩かない方がいいぞ……って、もう行っちまった」
「別に大丈夫でしょ。身軽みたいだし、そこまで馬鹿じゃないし。たとえ死んでもこっちは困らないしね」
「おい総司っ、そういう言い方やめろよな!」
「あはははは。さてと。僕は和ちゃんたちと遊ぼっかな」
「ったく…」
この日、出動していった新選組は、屯所に戻ってくることはなかった。
いつもがこの上なく騒がしいだけに、静かなのもなんだか不気味だ。
「―――――――……で、結局これって、たらい回しにされたってことだよな?」
「聞く限りではそうなるよな。組織の末端はいつも軽んじられるっていう定石」
つまりはそういうことか、と和と和輝は頷きあう。
「世の理だな☆」
「不琉木、土方さんにそういう調子でそれ言ってみろ。怒鳴られるぞ」
「いや、むしろ斬られそう」
若干ふざけているように見えて、実は三人とも複雑な顔をしていた。
伝令の話によると、だ。
新選組は確かに上からの通達を受けて出動したものの、向かった先には上手くその報せが伝わっていないとか何とかで。
方々で「もう一度問い合わせてくれ」だの「そんな通達は受けていない」だの「お前たちは必要ない。邪魔だ」などと散々言われ続け、近藤達が根気よく説得しようと試みたが
結局は予備兵扱いとされ、碌な陣を張ることもできないまま一晩待機する…とのことだった。ちなみにこれは、山南から教えられた。
「我々の扱いなど、まだまだこんなものですよ」
新選組に世話になっているとはいえ、その事情とは(三人の感覚としては)無関係であるため、何がどうなろうが知ったことではない
―――本当なら、そのはずだ。
けれど、まるっきり他人事として思えなくなっていることに、三人とも薄々気がついていた。
時間を経るにつれ、理屈ではなく情というものは多少なりとも湧くもの。これも、世の理と言えよう。
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