〜真珠ひとしずく〜破天荒三人組と新選組の時空奇譚 壱

□8話 まさかの幕末バレエ到来
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〜* 〜* 〜* 〜* 〜*


 夕刻
 
 なぜか上機嫌な不琉木が持って帰ってきたものに、二人は目が釘付けになる。




「…不琉木、お前、一体どこほっつき歩いたんだ?つか、ほんとお前って人脈づくり得意だな」

「だろ☆」

「これ、どうみてもオルゴールだよな」

「江戸時代にあるか?」

「舶来品だろ」

「一体誰にもらったんだ。まさか買ったんじゃないよな」

「どっかにいた誰かさんがくれた☆」

「どっかって…ほんと、器用な奴だな」

「どんな人?外人?」

「いや?日本語ペラペラだぜ。だがこの時代のやつにしちゃ変わった格好っつーか、むしろ未来の俺らに近い服だ。
 肌色濃かったし、髪は癖っ毛。そういやぁ、珍しい刺青してたな」





 不琉木が持って帰ってきたもの、それは、まさかのオルゴールであった。

 一見なんの変哲もない箱に見えるが、ゼンマイがついていて中を覗けば音を奏でる構造がまんま見える。






 現代に居た時から、不琉木は道すがら誰とでもすぐ仲良くなったりしては自分に必要な情報や人脈を巧みに集めていた。

 その中には公園のホームレスのおじさんだったり、言葉もわからぬどこかの外国人もいたりする。

 そして相手は相手で、不琉木に対しては不思議と容易く心を開く様だ。

 ただ、当の本人はその頓着のなさゆえか、名も顔も覚えて来ないというのが常だったが。






「ゼンマイ巻いてみようぜ☆」

「え、でもここじゃまずくない?」

「別にいいんじゃね?鳴らして困るわけじゃねぇだろ。危ねぇもんじゃねえし」

「けど絶対なんか言われるよな」






 とはいうものの。

 かくいう二人もこの時代のオルゴールがどんなものなのか大いに興味があった。

 決行は夕飯の後。そう決めて、三人は広間へ向かった。



 〜* 〜* 〜* 〜* 〜*



 流れてきた音色は思いの外綺麗なもので、むしろ三人はよく聞いたことのある曲であった。




「なるほど。こりゃヨーロッパのもんだな」

「うん、思いっきりバレエ音楽だな」




 そう、特に和にとってはかなり馴染みのあるこの曲。

 この幕末にオルゴールという妙な感動もあって、三人は夢中になって聞き入っていた。

 そして案の定、聞き慣れない音に驚いたのか、複数の足音が。





「不琉木!土浦!!小蔵!!!なんだこの音は!!!」

「ちょっと待て土方さん、なにも抜刀しなくても」

「ほら、やっぱ来ちゃった」

「うん、知ってた☆」

「てめぇら、そいつはなんなんだ?!」

「「「オルゴール」」」




 ちょうど曲が終わったので、不琉木が「ほれ」と土方の目の前にかざしてみせる。




「なんだぁ、こりゃ?」




 原田や永倉、そして他の幹部達も、見慣れないものを様々な表情で眺めやった。

 そして和輝が、それを手に入れた経緯を説明する。




「…話はわかった。だが不琉木!てめぇはあんまり勝手なことすんな!!」

「勝手っていうけどな、別に危ねぇことしてるわけじゃねぇし、そりゃ無理な相談だ」

「言う事きかねぇんなら首に縄ぁくくるぞ!」

「暴力反対、虐待反対☆」

「つーか、てめぇ俺の発句集どこやった!!」

「さあなぁ」




 いつの間にか話が逸れ、ぎゃんぎゃん騒ぎ出した二人は庭へ繰り出して行ってしまった。

 土方さん、言うところはそこに辿りつくのか…とツッコむのも今更なので、誰も何も言わない。

 そんな二人を余所に、残った者達は再びゼンマイを巻いて流れてきた曲に興味深々に聞き入っていた。




「聞いたことのねぇもんだな」

「ああ、笛でも太鼓でもねぇし。調子もまったく違ぇな」

「変なやつだね」

「そうか?俺は結構、良いと思うけどなー」




 永倉、原田、沖田、平助が感想を口ぐちに言い、斎藤は無言を貫く。




「っていうかさぁー」





 突如、庭から不琉木の声が聞こえ、何だとばかりに一斉に全員が顔を向ける。




「和(のどか)ちゃん、それで踊って見ればぁー?」

「え」






 土方から逃げつつ半ば叫ぶようにそう言う不琉木に、聞こえるはずのない声を和は上げる。

 それに、和輝が良い案だとばかりに便乗。





「そうだな。なんだかんだいって、俺も小蔵の踊り見たことなかったし。良い機会だ、踊って見せろよ」

「う゛」

「え、和って、なんか踊れんのか?見てぇー見てぇー!」

「む」

「そうだな、俺も見てみてぇな」

「ぬ」

「おもしろそうだね。見せてよ」

「ぐ」




 そして、無言の紺藍の視線が一つ。




(…もしかしなくても、これって既に断れない雰囲気?)




 土方と不琉木がようやく戻ってくる頃には、和は完全に丸めこまれてしまっていた。


 元々、他人の好意を無下に出来ない性格である。
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