〜真珠ひとしずく〜破天荒三人組と新選組の時空奇譚 壱

□8話 まさかの幕末バレエ到来
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 そして、後日。

 和(のどか)は幹部達に限って、なにゆえかバレエを披露するハメになった。まさかである。

 尤も、土方は案の定「んな何かを観賞してるヒマなんざねぇだろうが!!」と言っていたのだが

 反対されればされるほど、俄然やりたくなるというか見たくなるのが人の心理と言うもので。

 数日間ずっと「和の踊りを見たい」と某何名から連呼され続けた結果、土方がとうとう折れたのである。

 忍耐が弱いとは言うべからず。これは、その某何名かが異常にしつこかっただけである。






「うー、ほんとにやるのか…」





 これは、結構、緊張する。

 幾度か人様の前で踊った経験はあるが、もう近頃ではその機会がなかったし、まさか天下の新選組幹部に披露する羽目になろうとは

 ……一体、どこの誰が予想するだろうか。

 なにがそんなに皆の興味を擽るのか…と不思議に思う。

 だが、普段まともに娯楽など味わえない上に、和だけではないがあらゆる意味で存在自体に興味を持たれている。

 おそらくその延長線というか、好奇心が増幅でもされたのだろう。






「和ちゃん、諦めろ☆」

「元はと言えば不琉木が言いだしっぺだろ」

「気にしない気にしない」





 それと、一番困ったのは格好というか服装だ。

 まさか袴でやるわけにはいかないし、かといって最初に来ていた服装も動きづらい。

 そして散々考えた結果――使い古しの着物をもらって、改良してしまうことにした。





「っていうわけで、こんなんだけど…」

「まぁいいんじゃないか?」

「どうにかなるっしょ、がんばれ☆」





 かなり大胆に裾と袖を斬り落として縫い合わせ、舞台で着るような衣装もどきを作ってみた。

 とりあえず、動くのに困らない。シューズはないが、そこは御愛嬌だ。





 膝下や肘先からはもろに脚や腕が見えている。それは現代人にとってはどうってことはないのだが…

 どうもこの時代では、いわゆる破廉恥の範囲に入るのだろう。

 道場に集まっている幹部全員が、それぞれになんとも微妙な顔つきというか、若干何名かは思いっきり赤面している現在。

 だが今回ばかりは許してほしい。





「和ちゃん、いくぞー」





 ゼンマイを巻いて準備万端な不琉木が声をかけてくる。

「わかった」と和が返事をし、すぅっと精神を集中させるべく数拍、目を瞑り…




 そして目を開けた彼女の雰囲気に、顔を赤くして顔を背けていた平助や斎藤を含めた全員が、一気に表情を引き締めた。
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