〜真珠ひとしずく〜破天荒三人組と新選組の時空奇譚 壱

□12話 想い
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〜* 〜* 〜* 〜* 〜*


 誰もいない、何もない室内を、俺は見つめる。

 ここには、昨日は感じられなかった気配が、残っている。

 それだけ、あの三人が―――彼女が、ここで過ごした時間は、それなりということか。

 短い間といえば、それもそうかもしれない。時は瞬く間に過ぎ去る。長いと、断定はできないかもしれぬ。

 けれど、確実に、ここにいたのだ。少なくとも、それは断言できる。ここにいた、その時間の蓄積や痕跡は、確かに感じられる。




 …なにゆえ、こうまで慌てて部屋に来たのか

 …なにゆえ、“いない”という事実に、焦燥感を抱くのか



 ――…どうにも、解せぬ。









 ふと

 小さく煌めくものが、俺の視界に入った。








 見ると、丸窓の縁に

 指先ほどの銀細工が一つ、置かれている。

 室内に足を踏み入れて近づき、壊さぬようそっと手にとると、それが微かに纏う気配が誰のものか、すぐに察する。




(……これは、たしか)




 記憶を手繰り寄せる。

 これは、あの月夜の晩――三人と初めて相見えた時に、彼女の首元で微かに煌めいていたものだ。

 特に気に留めたわけではなかった。見知らぬ、正体の知れぬ者の持ち物など、検分でもない限り意識などはせぬ。

 だが、今、こうして思い出せるということは…無意識下の意識で、どうやら覚えていたようだ。




 銀細工の中に、指先よりも小さな、真珠がひとつ。




 繊細な誂えだ。気をつけて扱わねば、おそらく、容易く壊れてしまうだろう。

 一体、どこの職人がこれを生み出したのか。滅多に見かけることの出来ぬ、高等な技術をもってして作られたものだと、直ぐにわかる。

 全体的な色味(いろみ)は、刃のそれによく似通っている。けれど、慎ましく煌めく様子は、心なしかやわらかい。





(………)




 昨晩の、彼女の姿が脳裏に甦る。

 蜃気楼のように、瞬きをすれば、消えてしまうのではないかと――そう思うほど、あの姿はひどく儚く。

 よもや、あのまま、真に消えてしまったのか――









 ――はじめ、なにしてるんだ?――









「……!?」




 咄嗟に、振り返る。

 そこには誰もいない。開けっぱなしの障子戸から、廊下と庭先が見えるのみ。

 だが――緩やかにそよぐ風の中に、彼女の声と笑顔が、あった気がした。






 短い間といえば、それもそうかもしれない。

 時は瞬く間に過ぎ去る。

 長いと、断定はできないかもしれぬ。

 …それでも






 そんな気がするほどには、彼女と過ごした時間はそれなりということ、か…。
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