〜真珠ひとしずく〜破天荒三人組と新選組の時空奇譚 壱
□12話 想い
2ページ/9ページ
〜* 〜* 〜* 〜* 〜*
誰もいない、何もない室内を、俺は見つめる。
ここには、昨日は感じられなかった気配が、残っている。
それだけ、あの三人が―――彼女が、ここで過ごした時間は、それなりということか。
短い間といえば、それもそうかもしれない。時は瞬く間に過ぎ去る。長いと、断定はできないかもしれぬ。
けれど、確実に、ここにいたのだ。少なくとも、それは断言できる。ここにいた、その時間の蓄積や痕跡は、確かに感じられる。
…なにゆえ、こうまで慌てて部屋に来たのか
…なにゆえ、“いない”という事実に、焦燥感を抱くのか
――…どうにも、解せぬ。
ふと
小さく煌めくものが、俺の視界に入った。
見ると、丸窓の縁に
指先ほどの銀細工が一つ、置かれている。
室内に足を踏み入れて近づき、壊さぬようそっと手にとると、それが微かに纏う気配が誰のものか、すぐに察する。
(……これは、たしか)
記憶を手繰り寄せる。
これは、あの月夜の晩――三人と初めて相見えた時に、彼女の首元で微かに煌めいていたものだ。
特に気に留めたわけではなかった。見知らぬ、正体の知れぬ者の持ち物など、検分でもない限り意識などはせぬ。
だが、今、こうして思い出せるということは…無意識下の意識で、どうやら覚えていたようだ。
銀細工の中に、指先よりも小さな、真珠がひとつ。
繊細な誂えだ。気をつけて扱わねば、おそらく、容易く壊れてしまうだろう。
一体、どこの職人がこれを生み出したのか。滅多に見かけることの出来ぬ、高等な技術をもってして作られたものだと、直ぐにわかる。
全体的な色味(いろみ)は、刃のそれによく似通っている。けれど、慎ましく煌めく様子は、心なしかやわらかい。
(………)
昨晩の、彼女の姿が脳裏に甦る。
蜃気楼のように、瞬きをすれば、消えてしまうのではないかと――そう思うほど、あの姿はひどく儚く。
よもや、あのまま、真に消えてしまったのか――
――はじめ、なにしてるんだ?――
「……!?」
咄嗟に、振り返る。
そこには誰もいない。開けっぱなしの障子戸から、廊下と庭先が見えるのみ。
だが――緩やかにそよぐ風の中に、彼女の声と笑顔が、あった気がした。
短い間といえば、それもそうかもしれない。
時は瞬く間に過ぎ去る。
長いと、断定はできないかもしれぬ。
…それでも
そんな気がするほどには、彼女と過ごした時間はそれなりということ、か…。
→
次へ
←
前へ
[
戻る
]
[
TOPへ
]
[
しおり
]
カスタマイズ
©フォレストページ