〜真珠ひとしずく〜破天荒三人組と新選組の時空奇譚 壱

□12話 想い
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〜* 〜* 〜* 〜* 〜*


「えぇぇええっ!?の、和さん達、居なくなってしまったんですか!!?」

「うーむ…これは、参ったなぁ」

「おいおい、マジかよ」



 今しがた事情を聞かされたらしい千鶴、別宅からやってきた近藤、早朝の巡察から帰ってきた永倉が、三者三様の反応を見せている広間。

 井上もやってきて、事の次第にやはり、驚いている。



「新八、市中であいつらの姿は見なかったか?」

「いや、見てねぇな。つか、見たら言ってるぜ。あんな時間帯に三人揃って出歩いてたら、流石におかしいしよ」

「だよな…」

「そ、そんな…一体、どこに行かれてしまったのでしょう…」



 原田の問いかけに永倉が首を横に振り、その隣で千鶴は盆を手に瞳を翳らせる。

 昨日の話し合いに、千鶴はいなかった。あの後、そんな状態を他人に見られるわけにはいかないからと、三人は直ぐに部屋に引っ込んだため、千鶴は“存在感のない”三人を直接見てはいない。

 それでも、なにか良からぬ事が起きたことはそれとなく伝えられ、詮索するなと言われていたので、三人に何か事が生じているらしいことは知っていた。

 どうしたものか、と近藤は唸っている。

 その時――




「…副長」




 庭先から、静かな声がかかった。斎藤だ。その場にいる全員が、顔を向ける。




「…今しばらく、外出の許可を頂きたく」




 淡々とした、最低限の言葉のみ。

 だが、その場にいる幹部全員、斎藤の言わんとしていることを容易く察する。




 あの三人を、どんな意味であれ、このまま放っておくわけにはいかない。

 けれど、隊士達には任せられない。あの姿を見られるわけにはいかない以上、事情の知る幹部のみが動ける。

 そして、斎藤の場合、今日の午前中は非番。動くなら今だ。

 それに、密命をこなすことも多いから、人を捜索することには手慣れている。伝手も色々ある。目撃情報は引き出しやすいだろう。




「――良いだろう。頼んだぞ」

「はい」




 そうして礼をとった斎藤は、すぐさま踵を返す。

 そして…




「―――あ゛ーもー!!じっとしてられねぇ!!一君待てよ、俺も行くからっ!」

「おい平助!!てめぇは非番じゃねぇだろうが!!」




 我慢できない、とでもいうように腰を上げ、飛び出して行こうとする平助に土方が怒声を叩きつける。

 けれど、平助も平助とて、その勢いのままに返答をした。




「だってさ、一君だけじゃ絶対ぇ人手足りねーって!それに俺、あのまま和輝達と別れんの納得いかねーし!!」



 そう早口にまくしたてると、そのまま斎藤を追い掛けて駆けて行ってしまう。

 千鶴や永倉、井上あたりが何も言えないまま平助を見送る恰好となり、その傍らで、もう一人も腰を上げた。

 その意図を察した土方が睨むが、原田は苦笑し、肩を竦めつつ言う。




「元々、不琉木が飛びだしてったのは俺のせいだ。まだちゃんと話もしてねぇしな。俺が行かねえと、話になんねぇだろう?」





 原田達が出て行き、眉間に皺を寄せて暫し考え込んでいた土方は、はぁ…と息をつくなり、「山崎!」と鋭い声を出す。

 土方も、なにも斎藤のみに任せるつもりではなかった。平助に言われずとも、一人だけでは人員不足なのは承知も承知。




「あの三人を探し出せ。不琉木に怪我負わせた浪士の行方も調べろ」

「御意」



 音もなく傍に控えた山崎が、それまた音もなく立ち去ってゆくのを横目に、山南はゆっくりと腰を上げる。




「さて、私は部屋に戻りますよ。土方君、良い知らせを待ってます」

「あーあ、一君に平助に左之さんまでいないんじゃ、午前中の隊士達への稽古、出なきゃかなぁ。せっかく平助に押し付けてお昼寝しようと思ってたのに」

「あー、なんかよくわかんねぇが。とりあえず、直ぐに見つからなかったらどうすんだ、土方さん、近藤さん」

「ふむ…出来れば、市中にまだ居ればいいのだがなぁ」

「朝食の準備は、出来ているのだがね…どうやら、そんな場合でもないようだ。私は少し、勝手場を片付けてくるよ、勇さん、トシさん。雪村君も、手伝ってくれるかい?」

「は、はい!」






 池田屋、蛤御門などなど、諸々の事件を経て今の新選組が忙しい。

 これからまた、隊士を募集しようと思っているほどには、仕事も増えているし人手も入用だ。あの三人のことばかりに構ってはいられない。




 だからといって、もちろん、このこともおざなりにはできない。きっちり、始末とケジメをつけなければなるまい。




『逃げも隠れもしねぇ。こっちがてめぇらに害なすような存在だと思うなら――斬ってくれて構わねぇぜ?』

『だが、これだけは言わせてもらう』

『こっちは確かにここにいるし、 てめぇらが今迄見てきたもん が、嘘偽りねえ事実で俺らの姿だ。それは覚えとけ』




 土方の脳裏には、さっきから、昨夜の不琉木の言葉が巡っていた。



 その頃―――
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