〜真珠ひとしずく〜破天荒三人組と新選組の時空奇譚 壱

□7話 物見遊山
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なぜ どうして  

尽きぬ疑問は堂々巡りを繰り返す

それでも 今日も今日とて 生きなければならない―――


〜* 〜* 〜* 〜* 〜*


「千鶴ちゃん」

「はい、なんでしょう和(のどか)さん?」

「あのさ、なんか長い紐ないか」

「紐…御髪(おぐし)でも結ぶのですか?」

「いや、髪は別に。結ぶの持ってるしな。そうじゃなくてちょっと欲しいんだけど、貰って良いものある?」

「えーっと…ちょっと探してきますね」



 そう言ってパタパタ駆けて行き、しばらくして戻ってきた千鶴に和は礼を言う。




「使い古しなんですけど…」

「これで良い。ありがと」




 部屋に戻ると、また和輝と不琉木が軽く取っ組み合いをしていた。もうこれは猫のじゃれ合いと同じだ。

 けど、そんな変わらない二人の様子が、とても嬉しく安心できる。

 さて、と呟いて和は懐を探ってとあるものを取り出す。




「あ、おかえりー和ちゃん☆ん?なんだそれ?」




 不琉木がその手元を覗く。




「ああ、確か小蔵のおばあちゃんがくれたっていうやつか」

「その通り」




 それは、ごくごく小さな、銀色に煌めくもの。俗に言うペンダントトップ。

 シルバーで繊細にサンゴ礁の形に造られたものの中に、小さな小さな、丸い真珠が、一つ鎮座している。






 未来の三重県では真珠の養殖が盛んだ。特にミキ○トといえば、真珠業界でも知らぬ者はいない。

 和の祖父はその養殖事業に携わっていた時期があり、その関係で祖母も真珠には詳しい。

 その祖母が、和にとよこしてくれたもの。

 どこかで買ったのだろうかと恐縮したものだが、だが祖母は朗らかに笑って「違う」と言っていた。

 詳しいことは言わず、お守りとして持っておけと。





 少々、アンティークな風情を醸し出している。

 なぜ祖母がこれを寄こしたのか、その理由はよくわからなかったが、たしかに和はそれを気に入った。

 派手でなく、素朴で安心する感じがするのである。





「それをどうすんだ?」

「これだけ単独でしまってたら失くすし、紐に通しておこうと思ってさ。今、千鶴ちゃんに長い紐もらってきたから」





 そう言いながら、和はそのペンダントトップに紐を通し、丁度言い長さに括って首からかける。

 するとトップは丁度着物の内側にすっぽり隠れるようになった。これなら傍から見ても見えない。

 ここに来た時に通していた革紐は短くて、着物からはみ出して見えてしまっていた。

 あまり目立たないに越したことはないから外していたのだが、失くしても困る。





 和にとってこれは宝物のようなもの。

 今となっては、数少ない、自分達が生きていた現代に通じるものだ。なるべく肌身離さずもっていたかった。





「これでよし」

「なぁ、ところでこの時代って地図ってあんのかな。俺達でもわかりそうなやつ」





 季節が季節なので、ジメっとした暑さが漂っている。なので部屋の襖や丸窓は開けっ放し。

 廊下との狭間で壁に寄りかかり、そう言った和輝は風をのんびり感じていた。

 庭先にはアジサイが咲いている。

 元々、この八木邸は八木という人の家のものらしいから、その主人か奥方なんかが植えたのだろう。




「うん、まぁ、あると思うけど」

「あるのか?」

「ていうか、結構見やすかったりする。なにげ色とかついてたりするし、結構緻密で丁寧だし。古文書整理してると結構出てくる。なんで?」

「あれば便利じゃないか?そろそろ屯所に閉じこもってんのも飽きてきたしさ」

「あー、確かに」

「だよなー☆」





 ここに来て早くも半月ほど。

 旧暦など詳しくは知らないが、タイムスリップしてきたのが現代時間で六月後半突入時期だったから、多分初夏あたりだと検討をつけている。

 まぁ、トリップなぞした暁には多少の時間のズレは生じる可能性はあるし、厳密には同じではないだろうが…とりあえず、五感はそう訴えていた。





 最初は毎日毎日稽古でしごかれるかと内心ひやひやしていたが、確かに稽古は続けているものの四六時中ではない。

 千鶴の手伝いもしつつ、こうして暇ができることもある。
 
 元々じっとしている性分ではない三人が、そろそろ外に出たいと思うのは必然。






「けど、あたし達ってまだ警戒されてるし…外出許可なんかくれるのか?」






 そう、問題はそこだ。

 そうぼやいた和を筆頭に、この三人、他人にこうしろと言われてはいそうですかと従う口ではなく、自分のやりたいことを突きとおすタイプの人間で。

 特に不琉木なんかは三人の中でも一番身軽な性格もあって、この軟禁状態はかなり不本意なはず。

 それでも、半月もの間こうして大人しく屯所の中にいたのは、身に起きた訳のわからない状況と、一歩外に出れば命の危険があるからだ。

 とはいえ、やはりそろそろ限界がきているらしい。






「当たって砕けろ☆鬼の副長のとこいくかー」





 言うなりさっさと駆けていった不琉木の後ろから、苦笑しながら二人もまたついていく。

 空には薄く雲が漂っていた。
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