〜真珠ひとしずく〜破天荒三人組と新選組の時空奇譚 壱

□11話 疑念
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 信ずることは 容易いようで難しい

 疑うことは 難しいようで容易く けれどやはり難しい

 時に信ずることはその命を奪う――そんなこの世は、ひどく儚い


〜* 〜* 〜* 〜* 〜*


 蛤御門の変またの名を禁門の変から、五日後。

 まだまだ陽が照りつける日々が続いていた―――




「――――御苦労だった。下がって良いぞ」

「は」




 一礼し、音もなく立ち去る山崎の気配を背に、俺は筆を取って文壇に向かう。

 だが、俺の手は動かない。ふぅ、と溜息をついて諦めると、腕を組んでじっと考え込む。




「ったく……ただでさえ厄介なときだってぇのに」




 長州浪士共による御所襲撃。諸々の奴らの新選組に対する扱いは思った通り頭に来るもんだったが、けど今回のことで俺達は高い評価を手にすることができた。

 これから益々忙しくなるだろう。

 近藤さんを押し上げて、そして俺達も“武士”として生きる、認めさせてやる。

 そのための、大きな一歩だ。




 だが




 同時に、厄介な敵が現れた。

 池田屋の時、総司の奴と対峙したという、いけすかない金髪野郎。

『沖田と言ったか。あれも所詮ザコにすぎなかったな』だと?挙句、俺達新選組を犬だ腰抜けだとほざきやがった。

 今度会った時は目に物を見せてやる。




 聞けば、斎藤も平助に大怪我負わせた天霧という男に会ったらしい。原田の奴も、不知火とかいう奇妙な出で立ちの野郎と一戦交えたっていうじゃねえか。

 俺はその二人に会っちゃいねえが……どうもきな臭せえ。

 綱道さんも探さなきゃならねえし、雪村のこともある。

 あいつには最近、雑用も任せたり巡察に連れて行ったりすることも多くなって、平助なんかは完璧に軟禁してることを忘れてそうだ。




 だが、気を抜くわけにゃいかねえ。




 あんな餓鬼一人に俺達がどうなることなんぞねえが……だがこれは雪村自身というより、もっと別の何かが潜んでやがる気がしてならねえ。

 得体の知れない、でっかい問題が――それがなんなのか、わかりゃ苦労しねえんだがな。

 これが嫌な予感だとか、胸騒ぎってもんだろうよ。

 それに、もう一つ―――





「『へいせい』だと…?一体ぇ、あいつらは何者なんだ」





 未だに正体不明なあの三人。“あれ”を見たわけじゃあねえから、雪村より少しは自由をやってるが……

 あいつらがここに来て、もうひと月以上経つ。だが、これだけ監察方に調べさせても塵一つの情報も入ってこねえとはどういうことだ?

 日々の言動に不審なとこはねえ。よく塀を乗り越えてほっつき回ってる不琉木に山崎をつけさせちゃいるが、変な輩と接触している様子もねえ。

 どころか、身元さえ除けばまるっきり普通の人間だ。かなり個性的じゃあるが…





「……今夜にでも、あいつらにもう一度探りを入れてみるか?」





 俺はあいつらに対する警戒を解いちゃいねえ。

 山崎が伝えてきた、川原にいた時の三人の会話。

 それが唯一、確かな手掛かりであり、一番ひっかかってるとこだ。

 庭から少々賑やか過ぎる声が聞こえてくる。俺は溜息をつきながら立ち上がった。





「うるせえぞ、お前らっ。いい加減静かにしやがれ!!」

「「やなこった☆」」





 俺は新選組の「鬼の副長」だ。不審な存在は容赦なく排除するまで。

 気が抜けそうになる眼前の光景を、俺は睨むようにして見据えた。
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