〜真珠ひとしずく〜破天荒三人組と新選組の時空奇譚 壱

□15話 宴にて
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 いつも見ているその姿が 真実すべてとは限らない

 ヒトは誰しも 秘めていることがある

 かくもあやしき 妙なることかな―――


〜* 〜* 〜* 〜* 〜*


「「宴(うたげ)??」」

「ああ、新八の奴が五月蠅くてよ。お前らも付き合ってくれや」

「まぁ、そりゃ構わないけど」

「宴っつっても、ただ酒飲んで何か食って騒ぐだけだけどな。嫌なら無理しなくていいぜ。一応、声だけでもかけとこうと思ってよ」



 もうすぐ黄昏の刻、和(のどか)と和輝の二人は、屯所の裏にある畑にいた。襷を掛け、膝をまくり、その両手は土にまみれ額には汗が流れている。

 汗を拭いながら和が尋ねる。



「他の参加者は?」

「そうだな。いつもなら平助の奴がいるんだが、今は江戸だしな。あとはまぁ、総司に斎藤や土方さんも、一応声かけてみるさ。そういやぁ、不琉木の奴はどうした」

「まだ外だろ。まぁ、あいつも酒豪だからな。機嫌悪くなけりゃ乗ってくると思うぜ?ところでさ」

「うん?」

「さっき、物凄い音が聞こえてきたけど、あれってまさかどっかの部屋の障子戸ぶっ壊す破壊音じゃないよな」

「いや?そのまさかだな」

「で、その犯人は沖田か」

「ああ」



 話題を変えた和輝が尋ねた破壊音であるが、なんだかそれはそれは凄まじい音であった。表現のしようがない。

 ただ、とりあえず、障子戸の一枚や二枚は再起不能になったのかもしれない。

 「ほんじゃ、ま、頼むわ」と言って立ち去る原田の背を見送り、二人は畑仕事の片づけを始める。



「和輝、あたしって同罪かな」

「沖田のやつにバッティング教えちまったの、お前だもんな。ま、素知らぬ振りしとけ。バレたところで土方さんがお前を咎めるとは思えないけど」



 聞けば、ついこの間、和は沖田になんの話の流れか、バッティングの技法を教えてしまったらしい。おそらく、先ほどの激しい破壊音は、そこからの彼の仕業と思われる。

 大方、誰かさんへのいやがらせのために、何かを打って部屋に打ち込みでもしたのだろう。もうそこまでくれば、悪戯も徹底されている。



「はぁー…まさか、あの戦法もどきからあたしの棒の振り回し方に細かく興味持ってくるなんて思わなかった。しかも、総司って器用だからすぐにモノにしたし」

「悪戯に関しては精力的だからなぁ」



 ところでここ最近、屯所の食事のグレードが少し上がったという小さな評判が流れているのだが、その功労者について知る者は少ない。

 この二人、大学はさることながら高校時代の同級生で、所謂農業高校出身者である。

 そのため、いくら時代が違うといえど農の心得はあり、農業の時代差というものをしみじみ噛みしめながら、こうして畑をいじっている。

 身体も動かせるし気分転換もできるし、そして食べ物が得られるとあって一石三鳥。



「やっぱ、化学肥料とかなくてもそれなりにできるもんだよな」

「ああ、俺なんか極端な化学合成物質苦手な体質だから、むしろこっちの方が都合良いな」

「同感。最初はどうなることかと思ったけど」



 二人が屯所の畑の手入れをし始めたのはつい二十日ほど前。

 近頃では新選組の家計事情というものが調べずとも察しがつくようになり、加えて二人が見るに見かねたのは荒れに荒れた畑の有様。

 新選組もいろいろと忙しくなり、仕事量が増えて収入も増えたとはいえ、まだまだ金銭的に満足とは言えず。かといって、のうのうと畑をいじる暇も無し。

 経験者でもある二人が手を出すのも、最早必然のことであった。別の言い方をすれば―――それだけ、二人ないし三人が受け入れられるようになってきている、ということでもある。



「おや二人とも。今日も畑の世話をしてきてくれたのかい」

「源さんか。お疲れ様」

「井上さんは、宴に参加するんですか?」

「いや、私は遠慮しておくよ。どうも、もう齢でね。二人は楽しめばいい。ただ……」

「「ただ?」」

「頃合いを見計らって、切り上げていいんだからね?律儀に最後まで付き合う必要はないよ」

「「はぁ」」



 ほどなくして、二人は井上の言葉の意味を知ることとなる―――
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