テニスの王子様 夢物語::世界は彩どりに包まれて::
□青藍色
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いつも通りの、放課後の部活帰り。
ふと足を止めたリョーマは、そのままスタスタと方向転換した。こんな具合にいつも無言で突然行動を起こすので周りは遅れて気づくわけで。
「ねぇアンタ」
トン、と手に持っていたラケットで背中を軽く突く。そんな非常識というか無礼な行動が何故か素で許されるキャラなのがまた凄い。
「ブチョーが心配してたけど。怪我、もう良いわけ」
近所のスポーツスクールの玄関前。「「 あーっ!! 」」という目の前と後ろからの絶叫にリョーマは軽く耳がキーンとなった。
「良かったぁ、やっと見つかった!」
「俺達のこと探してたんですか?」
あの一件からこっち、会うのはこれが初めてである。あんな事態だったので、もし叶うならあの後の様子を知りたいとなんとなく意識の隅で探してはいた。
あれからゆうにひと月。まさか探されているとは思わず大石が訊き返せば。
「そうだよー、だってお礼したかったから!」
「そんなお礼だなんて。同じくスポーツをする人間として当然のことをしただけですから」
というか、あの状況下で近くにいるにも関わらず動かないなんて人間には成り下がりたくない。
ここのスクールの職員オリジナルのトレーナー服を着こなす彼女の胸元には「黄ノ下 菜穂」の名札。先ほどはスクール生を見送っていたところをリョーマが見つけて声をかけたようだった。
改めて怪我の具合を聞けば、病院の診察でも問題ないとのお墨付きで、暫く安静に養生して既に完治しているという。
「それを聞いて安心しました」
「ね。明日、さっそく手塚にも…っていうか、今からメールしようか」
「あ、俺やっときますよ。ちょうど部長に聞きたいことあるんで」
医学の分野を志す大石はあからさまにほっとし、隣で不二が思いついたことを桃城が受け継ぐ。
あの時、車まで彼女を抱き抱えて乗せた手塚だが、その後もしきりに気にしていた。
「てづか?」
「眼鏡のヒト」
「おチビったら、眼鏡は乾もだろー。えーっと、ほら、きのした?さん?車まで運んだ」
「彼、貴女のこととても心配してたんです。だから報告しようと思って」
尤もあの鉄仮面で寡黙なので表立ってではなかったが、それなりの付き合いである特に不二や大石はなんとなく察せられる節があったのだ。
「――心配、してくれたんだ」
ぽつり、と。「え?」と反射的に訊き返すと、「ううん、なんでもないよ!」と返され、続いて「そうだ!」と掌をぱんと胸の前で合わせて言うことには。
「ねね、みんなもし良かったら、ウチにご飯食べに来ない?」
to:手塚部長
from:桃城武
件名:見つかったッスよ
―――――――――
お疲れッス!
えっとですね、まずこれ不二先輩と大石先輩からも頼まれたことなんすけど、
例のヒト帰り道で見つけたッス。で、怪我も完治して後遺症とかもないそうです。
とりあえず元気でしたよ↓
【写真】
んで、俺としちゃこっちが本題なんすけど、この間相談したことで――
――部活後、生徒会の仕事を少し済ませた帰り道。この時間帯に誰かからメールを受信すること自体が稀なので、手塚は足を止めてメールを開いた。
件名だけではよくわからなかったが、本文を見てどんな用件かすぐにわかった。というか、ご丁寧に張り付けてある写真だが、彼女の了解を得ずに横から撮った感がする。
これは少し説教か、と頭の片隅で思いつつ、手塚の意識の大半は写っている彼女に向いていた。
「…そうか」
誰にともなく呟いた声音には、安堵。
静かな夕闇に溶け込んで消える。
同時に思い出すのはあの時のこと。
考えるより先に身体が動き、気づけば抱き抱えていた。
そもそも怪我人の扱いは慎重にしなければならない。そこにあって、リョーマと同等の小柄な女の子を見下すわけではないが、あのまま任せるのを黙認するわけにはいかなかった。
なんといっても手塚自身、左肘のことがあるから尚更で。不躾かと思わなくもなかったが、手も、そして口も出ていた。
『あ、ありが、とぅ』
もうなんともないのなら、それで良い。
急なことでおっかなびっくりしたまま、後部座席に降ろして離れる刹那に小さく感謝を伝えてきた。
コートを楽しそうに駆け抜ける、あの無垢な笑顔が曇らなかったのであれば、それで良い。
ポケットに携帯電話をしまい、手塚は一人、帰路に着いた。
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