長編夢小説2

□四十二章
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人間界へ戻り、一ヶ月が経った。

更に大きくなったお腹は、私の生活にも支障をきたしてゆく。

日増しに強くなる腹の張りと、時折感じる子供が腹を蹴る衝撃。

それが酷く私を喜ばせた。









『あと4ヶ月かぁ!楽しみだなぁ‼︎』









満面の笑みで私のお腹に耳を当てる陣は、優しくそれをさすりながら期待に満ちた顔をしていた。









『男の子らしいよ。』










私の言葉に、彼は顔を上げる。

そしてこれ以上にないくらいの笑顔を見せた。










『ホントかぁ⁉︎そうか、男かぁ‼︎じゃあオラがとことん強く育てなきゃだなぁ!』










屈託のない彼の瞳は、キラキラと輝きを放っていた。

強く優しい彼は、楓にとって最良の父親になるであろう。

彼を南野に以上に愛すことができることを願いながら、私は彼を見つめ微笑んだ。








ーピリリリリリー





テーブルに置かれた携帯を手に取ると、表示されていた登録していない番号。



心臓がドクリと跳ねた。

見覚えのあるその番号は、私の切ない記憶を蘇らせた。



下4桁の覚え安い数字は、南野が設定した彼の誕生日。










『何か音がすんな?』










鳴り続ける電話の音に、陣は首を傾げながら私を伺う。

陣はそれがどういう機能を果たすものなのか知らないようだ。




鳴り止まないその音に誘惑されたが、彼と共に歩むと決心した直後故 その電話に安安出る事などできなかった。




音が切れた後、暫くしてメールの着信音が鳴ったが 私はそれを確認することなく陣と会話した。



恐らく南野からのものだと察したそれを彼の視界から隠すようにさりげなくバッグにしまう。



陣との会話は、少し前から耳に入っていない。

彼を訪れた際に、あれ程ショックを受けたにも関わらず
彼からの連絡があった事が気になって仕方ない自分がいた。





本当に汚い、愚かな人間だ。


何も知らず無垢な表情で会話をする陣。
無知な彼に、酷く心が痛むのであった。
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