長編夢小説2
□四十五章
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『お邪魔します。』
関係が戻っても、相変わらず礼儀正しくベルを鳴らし部屋を訪ねる南野は 学校帰りに制服姿で毎日一度は顔を見せる。
一週間の学業の疲れから、週末はいつも少し気怠そうな雰囲気を纏っている彼が、今日はいつになく緊張感があった。
ソファでTVを観ていた私の隣へゆっくりと腰掛け、私をじっと見つめる。
『母に、会って頂きたいんです。』
この数日、私にも何度か過ぎったことだった。
そろそろそういう話も整理していかなければいけないようだと。
ただ、突きつけられると正直怖かった。
父もそして母もいない上に、実の息子の将来を奪ったような
何処の馬の骨かわからない私を
簡単に受け入れてくれるとは思えない。
『い、いつ?』
煙草を吸えない今、困るのはこういう心境になった時の手持ち無沙汰。
何か落ち着きを取り戻す為に、テーブルの上に散乱したリモコン達を綺麗に並べてゆく。
『今から。』
『え⁉︎』
久々に露わになった自分の素っ頓狂な声に、咄嗟に口を塞ぐ。
南野はクスリと笑い、私の髪を優しく撫でた。
『大丈夫。』
屈託のない澄んだ翡翠は、私の不安を鎮めていった。
「大丈夫」という便利で量産的な言葉も、彼が発すれば堅い信頼性のあるものに変わる。
やや残る不安を取り払うように私は立ち上がり、部屋をウロウロとした。
その様子を見ながら、彼はソファに凭れ苦笑した。
私は心の準備をするにあたって、堪らず弱音を漏らす。
『一杯ひっかけてから行こうかな?』
『ダーメ。楓に障るだろ?』
それから一時間後、身支度を整え彼と共に 以前住んでいたあの街へと部屋を後にした。