長編夢小説3
□八十八章
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『蔵馬っ!蔵馬っ!』
無数のオジギソウの中へ消えた蔵馬の名を呼びながら、そのオジギソウを爆破させていく鴉。
その光景は、遅れて到着した飛影を絶句させた。
蔵馬を殺す事に異常な執着を示していた男が、その蔵馬を救出しようとしているのだ。
『蔵馬っ!辞めろ、死ぬな!お前は俺が…蔵馬っ!』
身の毛がよだつ程異質な光景に、飛影はただただ背筋を凍らせた。
固まって動かない身体とは裏腹に、頭を駆け巡る蔵馬の姿。
八つ手を追い、深傷を負った自分を躊躇いなく助けた時の事。
信用と信頼との区別がハッキリした芯のある対応。
母親以外で初めて見せたあすかへの執着心。
全てが走馬灯の様に飛影の記憶を駆け巡った。
『あいつは…死ぬのか…?』
力なく漏れた飛影の声は、遠くで鳴る爆発音と火薬の臭いにかき消されて消えた。
気づけば小刻みに震えていた握り拳は、更に固く握られ 指の間からは鮮血が滴り落ちている。
『あいつは…どうする…?蔵馬、あすかは…。』
オジギソウに呑まれ、生命を絶やそうとしている蔵馬へ
やり場のない感情がこみ上げた飛影は、もう鴉の姿など視界に入っていなかった。
一瞬にして焼き切れた包帯は、黒龍と邪眼を露わにし
その身体からは黒く凄まじい妖気が昇る。
『蔵馬から離れろ、鴉!貴様の相手は俺だ!』
そう叫んだ飛影が地面を蹴り、走り出した時
オジギソウを毟り続けていた鴉の姿に異変が起きる。
咄嗟に急ブレーキをかけた飛影は、息を飲んでその光景を見据えた。
そしてすぐに、なにが起きたのかを理解した飛影は、薄く笑みを浮かべた。
『死ぬ時まで周到とは…。お前らしいぜ。』
そう呟いた飛影は、邪眼を閉じ ゆっくりとそこへ近づいて行く。