中編夢小説

□七章
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『あぁっ!んっ!』












身体に走る味わった事の無い刺激に、声を上げながら悶える。

断続的に襲う感覚は、ハァハァと肩で息をさせ
額にはじんわりと汗を滲ませた。




会場を一度出て、躯の不気味な専用車に収容された私は
今、負傷した足の親指を得体の知れない液体で手当てされている。











『あぁっ!死ぬ!痛い〜っ!』


『我慢しろ。生温い処置で復元する程のモノじゃないぞ。』













片眉を上げながら、ピシャリと言いつけた躯は
ピンセットで挟んだひたひたの綿を傷口にあてがう。

思ったよりも損傷の酷かった患部は
相手がA級妖怪ともあって、爪を貫通して肉がむき出しになる程のものだった。


負傷した本人が目を背けてしまう程の傷口を、たかだか数分前に知り合った躯は 眈々と処置を施していく。












『あの…。』


『何だ?』











問いかけても、手を止めることなく反応した躯は
こちらを見ること無く患部だけに集中していた。











『あ…ありがとう…ございます。』


『礼ならいい。』











そう返された時、キュッと締められた足の指の付け根。

出した事もない悲鳴に、咄嗟に自らの口を塞いだ。


そして、ふわりと優しくガーゼで覆われた後
全ての処置が完了した事を告げるように躯は息をついた。












『よし、もう帰っていいぞ。』


『え…。あ、あの…。』









『そこにある八咫烏の止り木を、杖代わりにしていい。』


『いや、あの…!』











その木を指差しながら、腰を上げようとした躯は
やや張った私の声に、再び腰を据えた。











『…いや、やっぱ大丈夫です。』












理由もわからないまま、躯を引き留めた衝動に
自分自身戸惑いながら引き下がる。

しかし、胸中激しく掻き乱す何かが私に警鐘を鳴らしていた。

ゆっくりと足を庇いながら立ち上がり、先程使えと許可された 杖のある方へ歩いて行くと
背後からかけられた声に、思わず振り返る。











『痛みが引いたら、また来い。追って経過を診る。』












優しく微笑んだ躯に、言いようの無い感情がこみ上げてきた。

そして、無意識に溢れた笑顔。

ギプスや最悪車椅子などというものを、今まで哀れに思ってきた私が
その杖をつきながら会場までを歩いている間
何故だろうか、強い高揚感に満ち溢れていた。
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