長編夢小説

□八章
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膝の痺れで目を覚ました。

彼が眠りについてから暫く、私もそのまま堕ちてしまっていた。
まだ南野は膝の上で寝息を立てている。

子供のようなあどけない顔が、自分を罪悪感で一杯にした。


彼を意識し出してから、『年齢』というものをひどく痛感するようになった。

彼はまだ若干17歳、自分は29歳とあまりの差をぐるぐると考え込んでは、結果的に気が早い悩みだと放棄する。

私自身、彼に対する気持ちも不確かだ。



テーブルの煙草に手を伸ばし、目覚めの一服をすると
煙につられてか、南野はゆっくり瞼を開け膝の上で身じろぐ。









『あれ…?』










むくりと起き、状況を把握しようとする南野。
太ももに伏せていた方の頬には、クッキリと丸く赤い痕がついている。









『おはよう。不良。』










と言い放った私の言葉にバッと目を開け時計を見た彼は、咄嗟の動作に頭痛が走ったのか こめかみを軽く押さえた。


そして私の方を向き、頭をかきながら呟く。











『すみません、ちょっと…ハメを外しすぎたみたいで。』











その姿は、少年そのもので意地らしい程可愛いものだった。











『そのようで。しかし、あんだけ寝たのにまだ酒臭いね。』










彼はしばらく悩んだような顔をして、また申し訳なさそうに口を開く。










『あの、お願いがあるんですけど…。』












私は悟ったように

『お風呂、溜めてくるから。なんならサウナでも行ってくる?』

と促す。




恐らく彼は早く酒を抜きたいのだろう。











『流石ですね。』









笑みを浮かべながら偉そうに言ってのけた彼に
コツっと一つゲンコツを落とし、バスルームへ向かおうとした。



その瞬間、強い力に引き寄せられ、私の膝はガクンと崩れ落ちる。
急に変わった視界と、上半身に伝わる温もり。
南野の腕の中にいること確認できた時、改めたように遅れて心臓が跳ね上がった。


心音が伝わるのが恥ずかしい一心で、彼の胸を手で押すと
ぎゅっと力を込められた腕に更に捕らえられる。










『離れないで…くれたら嬉しいです。今は…。』










更に強く南野に締め付けられた身体は既に隙間などなく密着していた。

心音が伝わってしまうと、恥ずかしさに耐えかねキツく目を瞑る。









『明日…帰ってもいいですか?』










そう静かに告げた彼に、更に鼓動が早くなる。
もう当然、相手には伝わってしまっているであろう激しい心音。
味わった事のない程の羞恥心に襲われたが、それはすぐに解き放たれた。


彼から伝わる鼓動が、私より遥かに早く強いものだったからだ。




彼はその後、すぐに風呂で酒を抜いていた。
ただそれは無駄な努力に終わり、風呂上がりの彼はまだ夥しい酒気を纏っていた。

今となっては、逆に帰宅させず よかったと思う。
彼の母親は ひどく心配しただろう。










『若いのに なかなか抜けないね。何を飲んだらそうなるのさ?』


『…魔界の酒です。』







『あぁ、マカイ産のね。』


『え?…えぇ。』










彼はフッと笑ってソファに腰掛ける。
そして、やや気怠そうにバスタオルで顔を覆い、暫く天井を仰いでいた。
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