長編夢小説2

□四十一章
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ベランダが開き、いつもの様に水瓶を抱え現れた男は 私を見つめ目を丸くした。









『あすか…?』









陣は私に視線を向けたまま、水瓶を床に置き ゆっくりと近づいてきた。

酒気を纏った私の手から、ビールの缶を優しく奪い それを暫く見つめる。









『ダメだぞ?酒なんか飲んだら、子供がビックリすんべ。』










彼は複雑な表情を混じえながら優しく私に微笑んだ。


そしてそれ以上何も聞かず、缶をコトリとテーブルに置いた。









『あすか…?』










私の顔を覗き込んだ彼の顔が、次第に滲みぼやけていく。


顔全体に血が上り、頬を伝う熱いものを感じた。



それと同時に、クリアに見えた彼の顔は、無垢な瞳を揺らし強張った表情に変わった。

再びぼやけていく視界。





私は泣いていた。




酔いもあってか、感情を抑えきれなかった。


躯の前で流した涙とは違う、とても独りよがりな涙だった。




俯いた顔から滴り落ちる涙は、ポタポタと床に音を立てる。

止めようと思えば思う程、余計にまた溢れてくるのだ。



この世で一番惨めな人間に思えて、悔しさと悲壮感に気づけば小さく身体が震えていた。





肩に感じた陣の手。
それが、やけに熱く感じ次第に力が込められていくのがわかった。


そして荒く引き寄せられた私は、彼の硬い胸板に顔を埋める。









『あすかに泣かれたら…。
オラ、どうしたらいいんだ?どうしたら…?』










彼の喉仏が頭上で蠢く。
尚とめどなく溢れる涙は、彼の胸板を熱く濡らしていく。



埋めた顔にバクバクと伝わる心音は、次第に私の理性を劣情へと変化させていった。









『抱いて欲しい。』









陣を見上げたと同時に、腕を回し強引に彼を引き寄せる。


重なった彼の唇は、微動だにせず硬直していた。


陣は酷く動揺し、瞬きを忘れたかのように目を見開いたまま動かない。




だが、彼を纏う布を肩から剥がした瞬間、糸が切れたように主導権が奪われた。









『あすか…‼︎』
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