長編夢小説2

□四十三章
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『あすか!』










温子と別れ、マンション前へとやっと辿り着いた時 背後から呼ばれる声に歩みを止めた。

だが、私はその聞き覚えのある声に振り返ることなく、再び歩き出す。









『あすか!本当にごめんなさい、あんなこと!』










それは先日再会した、母親とは名ばかりの女の声だった。

虫唾の走るその声を、耳に入れぬよう両手で耳を塞ぎ、大きく深呼吸しながらエレベーターへ向かう。










『あすか、聞いてっ!私…』










私は再び立ち止まり、彼女に背を向けたままクスクスと笑った。
気が振り切れてしまったように。

さぞ不気味だったろう。


そしてゆっくり彼女を振り返る。









『何?』










彼女は、私の簡素な言葉に凍りついてか
ひどくショックを受けたような表情をしていた。

目の前の女は、いつか見た時と同じように 大粒の涙をボロボロ流し泣いていた。










『お金は全て返すわ。約束する!
だから、私ともう一度…』











私はそこまで聞いて唇を噛み締めた。

都合のいい要望、都合のいい要求、そしてまた都合のいい要望。



脳天を突き抜けた電流のような嫌悪感。

これを人は『殺意』と言うのだろう。










『………っれ。』










視界はぐるぐると弧を描きはじめる。
自分の声も感情も確認できないまま 私は荒く息をあげていた。









『え?』











女の素っ頓狂な声をきっかけに、頭の中でプツリと音が聞こえた。












『消えろって言ってんだよクソッタレ‼︎』











自分でも今まで聞いたこともない声だった。

腹のそこから湧き上がる憎悪がそうさせたのか、野太く響く声で怒鳴った私。
今まで冷静で動じない自分を形成してきたつもりだったが、それが儚くバラバラと音を立てて崩れた。


この女は 私を崩壊させ、全て壊してくれたのだ。



南野と別れ傷心し、憔悴しきった私の元へ タイミング良く無意識にトドメを刺しに来た女なのだから。

この図々しい女を、ズタズタにしてやりたかった。



だから私は笑った。


こんな奴なんか、母親なんか
存在しなければいいと。



誰か、この女を

お願い、殺して。










『あすかさん‼︎』
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