長編夢小説2

□四十四章
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『さぁ、どう転ぶかな。』










黄泉は雷禅の形見をかざしながら、ゆっくりとワインを一口飲んだ。

鏡には、人間界のあすかと南野が映し出されている。


グラスを持ったままの黄泉は、空いている方の手でワインのボトルを手に取り、少し離れ置かれているグラスにそれを注いだ。

そのグラスに片手を添えたいつもの客人は、トクトクと音をたて増してゆく紅を見つめる。










『さぁな。俺はあすかさえ幸せになればそれでいい。』










躯は鏡にさほど興味を示すことなく、注がれたワインを煽る。

黄泉は鏡をテーブルに置き、いつでも観れる状態にしておいた。



すると、ペタペタと足音を立て 黄泉の部屋へ近づいてくる妖気に二人は反応する。










『黄泉、鏡をしまえ。』










躯の言葉に、黄泉は大人しく従った。
そして部屋の扉を叩き、足音の主が現れる。










『躯、探したべ〜!』










躯と黄泉は、このタイミングに心拍数をやや上げながら、満面の笑顔で扉を開けた陣を迎えた。










『陣、俺に用か?』










躯は薄く作り笑顔を浮かべると
陣がペタペタと2人の掛けているテーブルへ近づいた。










『あ〜ッ‼︎』










彼の大きな声に、二人は心拍数が更に上がる。

まさか鏡を見られてしまったかと、躯が黄泉を振り返ると
黄泉は胸に忍ばせている鏡をしっかり隠すように手触りで確認した。









『っんだべ〜‼︎
せっかく結界術習得しに来たら、酒飲んじまってんのかぁ。』










陣の言葉に、二人はホッと胸をなでおろした。
黄泉の額からは、らしくもなく冷や汗が一筋流れていた。









『あ、あぁ。結構な深酒でな。
また出直してくれ。』










躯はそう言うと、取り繕う様に一気にグラスを空にする。
陣は、了解と返し踵を返した。

その時、部屋に現れた人物が彼の足を止める。










『陣〜っ‼︎』










陣に駆け寄ったその人物は、彼のがっしりとした腰下にダイブするように抱きついた。










『修羅〜!またデカくなったな〜‼︎』









陣は腰に腕を回した修羅を見下げ、頭を撫でる。

彼は統一トーナメントの時から、陣によく懐いていた。

陣のルックスと人柄は、幼い子供達に人気があるようだ。

修羅曰く、陣の空中旋回は どんなアトラクションよりも痺れるらしい。










『まだ帰らないでよ!僕と遊んでよ〜‼︎ねぇ、陣!』











修羅は足をバタバタさせ陣の腰にしがみつき、全体重を乗せた。

黄泉は立ち上がり、そこへ近づく。











『修羅、ご迷惑だ。離れなさい。』



『イヤだ‼︎陣と遊ぶんだ!』











黄泉が渋々修羅を引き剥がそうとした時、陣は修羅を抱き上げふわりと浮いた。

そしてそのまま修羅を肩に跨がせ、ニッコリと笑う。











『じゃあ、どこいくべ?』











肩車された修羅は、身体全体で喜びを表すかのように手足をバタバタさせた。

黄泉は、申し訳なさそうに陣に顔を向ける。









『悪いな、陣。』


『気にすんな。いいなぁ〜!子供って。』











陣は嬉しそうに彼を肩に乗せたまま、部屋を後にして外へと出て行った。

部屋に残された二人は、彼の言葉に酷く複雑な気分になり
それから言葉を交わすことなく静かに酒を煽り続けた。
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