長編夢小説2
□四十六章
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『いらっしゃい。』
玄関の扉が開くと共に、飛び込んできた優しい声と笑顔。
彼の母であろう彼女は、柔らかく目尻を下げ 少し彼を思わせる笑顔をしていた。
私は深々と頭を下げ、しっかりと名乗り顔を上げる。
『そんなご丁寧に。どうぞ。』
彼女は私の腕に優しく手を添え、中へ入るよう誘った。
南野の顔をチラリと横目で盗めば、彼はニコリと笑い 私の背中を優しく押す。
高鳴る心臓を鎮めるように胸に手を当てながら廊下を進み、彼女の後に続く。
履きなれない用意されたスリッパの音が耳に響き、心音と重なる。
『いらっしゃい。待ってたよ。』
中から迎えてくれた、人の良さそうな彼の義父の声。
その横に立つ少年は、少し照れたように会釈し私を見ている。
生活感漂うリビングは、自身の部屋より温かい雰囲気を醸し出していた。
『初めまして。やっと会えたね、あすかさん。』
食卓に並ぶ五人分の夕食。
それがどういう意味かを理解し、私は一気に変な緊張感から解放される。
『秀一から、時々お話聞いてたのよ。あすかさんのこと。』
彼の母は、ニコリと笑い私を食卓へ座らせる。
ゆっくりと腰掛けた私は、拍子抜けする程の温かい歓迎に 逆に戸惑ってしまった。
視界に入る何十年も記憶にない家庭料理達。
先程まで騒いでいた心臓は、すでに穏やかに正常を保っていた。