長編夢小説2

□四十七章
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『つうか、おめぇ仕事どうすんだ?』










幽助は早くも三杯目の酒を注ぎながら南野に問う。



その質問にハッとした。

自分のことでいっぱいで、彼の就職について考えが至らなかったことに今更気づく。










『義父の会社を手伝える事になってね。今はそうさせて貰おうかと。』










涼しい表情で烏龍茶を飲みながら言った彼の言葉に少しホッとしたが、「今は」という表現に胸が痞える。

もしかして彼には何かやりたいことでもあったのではないか。










『良かったな、じゃあ心配要らねーな あすか。』



『うん…。』










空返事をしながら、空になったグラスに二杯目の酒を注ぐ。

もし仮に、彼に何か夢などあったとしても、私に気を遣い口が裂けても言わないだろう。










『これでお終い。母体に障らないと言ったって魔界の酒ですからね。』











南野はそう言って瓶を持つ私の手に自身の手を重ねた。

私は口をへの字にして見せて、オーバーに頷く。











『大丈夫だって蔵馬、コレ泉の水で作ったヤツらしいからよ。』











幽助は私を制した彼の腕を掴みながら、一升瓶を指差す。










『泉って…妖精の泉か?』



『あぁ。陣が妖精に聞き出して、害のない酒を酎に作らせたんだと。』











幽助は南野に説明しながらゴクリとそれを煽った。

そして私の方を見て目を細める。











『どっかのアホが、子供がいるにも関わらずベロベロに酔ってたらしいからなぁ!飲みたいなら害の無いものをって、あの単細胞が血眼で調べたんだとよ。』










南野の学校を訪ねた後に、帰宅して酒を煽っていた時 陣が優しく止めてくれた事を思い出す。

紛れもないその事実を告げられ、少々分が悪くなり幽助から目をそらした。



彼は苦笑しながら、ベランダの戸を開け煙草に火をつける。

南野は全てを察したのか怪訝そうに眉を寄せ、私の顔を覗き込む。










『い、色々あったの!』










私はそれについて言及される前に、南野へ布石を打った。

しかし南野は表情を変えることなく私の顔をじっと睨んだままだった。
そして一つ大きな溜息をついて、ソファに凭れる。










『全く…陣のひた向きさにはホントぐうの音も出ませんね。
正直、俺が女なら惚れてると思いますよ。』










彼はそう漏らすとクスリと笑った。

そしてゆっくりと立ち上がり、キッチンへ向かう。

振り返った彼の手には洗いざらしのグラスが一つあった。












『俺も一杯頂こうかな。』










再びソファまで戻ってきた彼は、幽助にグラスを差し出し お酌を求めた。

幽助はニンマリと歯を見せ、嬉しそうに一升瓶を掲げる。










『おーおー、不良だねぇ蔵馬君!』


『君に言われたくないな。』










二人は笑顔で罵り合いながら酒を酌み交わす。

私はいい意味で妙な居心地の悪さを感じ、テレビに釘付けになっている飛影の隣に移動した。










『飲んでる?』



『そんな事より、あの丸いのはまだか?』










覗き込んだ私の顔をギロリと睨みつける彼からは、いつもより遅いお目当ての到着を待ち苛立ちが見えた。










『もうすぐ来るから。』










私がそう諭した時、タイミングを見計らったように玄関のベルが鳴る。

飛影はやる心を押し殺すように静かに立ち上がり玄関へ向かった。











『そんな好きかね?』










私は、宅配にお金を支払う彼の後ろ姿を眺めながら 理解に苦しむ。

だが、ピザを抱え リビングへと向かって来る彼の頬が僅かに緩んでいるのが目に入り、私の顔からも自然と笑みがこぼれていた。

雑に箱を開け、一欠ピザを頬張る彼にいつものお約束を持ちかける。










『美味しい?』



『悪くない。』
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