長編夢小説2

□四十八章
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ー3月某日ー





『今日で高校生活も終わりかぁ。特別何の執着もなかったが、何か寂しいな。』










春の陽気に包まれながら、感傷に浸るように海藤がもらす。

卒業式を迎え、体育館へと移動する南野と海藤は神妙な顔つきで肩を並べていた。










『俺はようやく教科書から解放される分、清々してるけどね。』



『いいよな、義父が会社やってる奴は。』










清々しい顔の南野を羨むようにジトリと見つめる海藤は、春からは某大学の文学部へと進学する。

一足先に社会人になる南野に、また自分を追い越されてしまうというちょっとした劣等感を感じていた。










『なぁ、くどいようだが 何で急に進学辞めたんだ?俺にぐらい理由教えてくれたっていいだろ。』










就職に進路変更したタイミングから、毎日のように海藤のこの台詞に詰められていた南野。

体育館の入り口までしつこくせがむ海藤に、半ば呆れながら南野は立ち止まった。










『まぁ今日で卒業だし、しょうがない。お前にだけ吐くよ。』



『ホントか⁈』










海藤は目の色を輝かせ、南野に詰め寄った。










『ただしリアクションするなよ?』










南野は目を細め、海藤を見つめた。
海藤は大袈裟にブンブンと首を縦に振り、忠告に従うと誓う。

そして南野は海藤に近づき、完全に口元を覆い耳打ちをした。










『え¨ッッッッ‼︎‼︎?⁇?』










海藤の驚愕した声が辺りにこだましたと同時に、周囲の生徒が一斉に2人に注目した。











『海藤、南野っ!落ち着きがないぞ‼︎』











スーツをあしらい、神妙な表情をした教員から飛んで来た怒号。

二人は申し訳なさそうに会釈をし、少々頬を赤らめ下を向いた。










『初めてですよ、教師に怒られたの…。』



『記念になったな…。』










開き直ったような海藤のリターンに、南野は恨めしく睨みを利かす。

あれだけリアクションを取るなと忠告されても、イキナリ父親になるという話は学生には耐性のないものだった。









『就職に家庭に、どんどん俺との差を開いてくなぁ。』



『別に。タイミングですよ。』










南野の無意識な大人びた発言に、更に劣等感を増した海藤の表情は いつもの倍、幸の薄いものになっていた。

春風が、待機している卒業生の間をサーっと抜けていく。

ひらひらと舞い散る桜の花弁が、卒業する生徒全員を労うかのようにあたりを桜色に染めた。










『お幸せにな。』










照れ臭そうに眼鏡を上げながら海藤は祝福する。










『どうも。』










未だ舞い散り続ける桜の花弁を眺めながら、南野は校庭に視線を移す。

桜の匂いに包まれた景色は、澄んだ青空がよく映えていた。
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