長編夢小説3

□八十章
1ページ/4ページ




翌日、また翌日と朝から晩まで街を捜索する四人には 半ば疲れの色が見え始めていた。

四人が次第にピリピリし始めたのは、暫くの共同生活において
精神的なパーソナルスペースが無い為だろう。
理解はしているが、気を遣う以外何も出来ない私は
躯が調達してくれた人間界の品を皆に共有する。











『飛影、あんたの好きな番組始まるよ。』


『別にテレビなど好きじゃない。』









『幽助、漫画本読む?』


『マジか!おぉ‼︎ヤンマガじゃねぇか!』









『南野くん、パソコン使う?』


『いいんですか?』












皆がそれぞれに娯楽を楽しむ中、躯と私は二人それを眺める。

『お前の為に用意したのに』と皮肉を言いながらも、満足そうにその光景を見る躯。
カタカタとキーボードを叩いた後、何やら機材を運んで来た南野は
無心にそれらと向かい合っていた。











『躯は大丈夫?自分の時間ないでしょ?』


『気にするな。永らく生きている中のほんの一握りに過ぎん時間だ。』











そう言ってトクトクと私のグラスへワインを注ぐ。
気にした事も無かったが、これだけの量を毎日消費しているにも関わらず、躯の部屋のワインセラーはいつも充実している。
それだけ未だ彼女の配下に着きたい魔界の者達が、引っ切り無しに貢物を授けているのだろう。











『皆さん、ちょっとこちらへ。』











やっと画面から目を離した南野が、口を開いた。
パラパラと全員がそこへ集まると、パソコンの画面に良く知った人物が映っていた。










『おぉ!元気か、皆の衆!と、躯さん…。』


『な⁉︎桑原ー⁈』











画面の人物に幽助が声を荒げた。
南野はクスクスと笑いながら、私達へ説明をした。
通信機を接続し、人間界でいうSkypeの様な電波をジャックしたという。
ただ実験的なもの故に、その分まだ電波が安定せず画像も粗く、固まったりすることを南野は詫びていた。











『魔界はどうだ?こっちは、相変わらず雪菜さんとの二人の共同生活を…イデッ‼︎‼︎』


『どきな、和。あすかちゃん久しぶり〜!元気?』











頭を勢いよく摩りながら画面から消えた桑原の代わりに現れた静流が、にこやかにこちらへ手を振った。

美容室はあれから移転して拡大する程賑わいを見せ、今では番組のヘアメイクに出張する程 静流は忙しくなったという。

大雑把な世間話に花を咲かせていると、静流の背後に映る雪菜の姿が見えた。











『あ、雪菜ちゃん。久しぶり〜!』


『コレは…?あすかさんに、蔵馬さん、躯さん、幽助さんも!』











不思議そうに画面を見つめる雪菜は、映像での通信技術に初めて触れたのか珍しそうにこちらを見ていた。











『飛影も居ますよ。』


『チッ!』












雪菜が現れてから、画面に映らぬようパソコンから離れていた飛影の腕を掴み 側へ引っ張った南野は
知らぬ存ぜぬの表情を貫き、何食わぬ顔で画面に手を振っている。











『飛影さん、お久しぶりです。お元気ですか?』


『あ…あぁ。』










皮肉にもここに居る全員が二人の関係を知っている始末。
飛影は非常にやりにくそうな様子だった。
皆が其々に画面の向こうと会話したあと、南野が桑原へと告げる。











『ということで桑原君、もし人間界に妙な事が起きれば これに映像を流して下さい。』


『はいよ。じゃ、くれぐれも気をつけろよ!』












プツリと途切れた画面は、真っ黒になった。
再び定位置に戻った皆は、各々また時間を過ごしたが
暫くすると、私と躯が囲むテーブルにチラホラ集まって来た。










『躯、俺にも酒くれ。いや〜しかし桑原のヤツ、相変わらずブッサイクだったな〜。』


『失礼ですよ、幽助。彼はブサイクというより…』


『失敗ヅラだ。』











居ない者の事をこうも好きに言う彼等は、一体どこでどう繋がりあっているのだろうか。
決して馴れ合いはしない、離れもしない不思議な関係だと思った。

しかし、そのコミュニケーションによって滞った空気がまた巡り出したのは 紛れもない事実。
皆は久しぶりに深夜まで宴を楽しんだ。
そして其々眠りについた。


明日からまた、長い旅が続く。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ