長編夢小説3

□八十二章
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開けられた扉の方を見て二人は胸を撫で下ろし、心の中で大きくガッツポーズをとった。

先ほどの金髪の少女が、楓を連れて立っていたのだ。












『ママ〜!』












駆け寄ってきた楓は、グズグズに涙を流している。
それを腕に抱きとめ、少女を見た。
すると彼女は私達を見て、たどたどしく口を開いた。












『あの…街で、迷子になったみたいで…その子の言う方に歩いて来ました…。あの…』


『ありがとう。』











照れ臭そうに微笑んで軽く踵を返した少女を、咄嗟に引き止めた。













『あの!お礼に、お茶でもどうかな?』


『え…?でも…。』








『お菓子もあるし。迷惑じゃなければ。』


『あ…じゃあ、お言葉に甘えて。』












ブルーの澄んだ目を揺らし、少女は部屋へと足を踏み入れた。
彼女をテーブルへいざない、少し待つよう伝えた後
泣き疲れて眠気を漂わせ始めた楓を南野へ預け、紅茶とクッキーを用意する。


アールグレイのいい香りが部屋中に広がり、少女の顔に素直な笑顔が見える。













『いい匂い…。』


『人間界の飲み物。口に合えばいいけど。』













彼女に斜向かいになるようテーブルに着き、先に紅茶をすする。
遅れて彼女もそれを口に運んだ。
そして柔らかに微笑む。













『美味しいです。』


『クッキーもどうぞ。私は甘いの食べないから。』








『……。』


『別に毒なんか入れてないよ。
ホラ。』












警戒しているように見えた為、一枚かじって見せてやる。
続いて彼女も一枚手に取り頬張った。
頬に手を当てて、わぁっと明らさまに目を輝かせる。













『こんなに美味しいものがあるなんて。』


『好きなだけ食べて。この家の人は、みんなそういうの食べないの。』













そう言うと、喜んで二枚目のクッキーを手に取る。

無垢で綺麗なその容姿に反して、あまりに粗末な仕上がりが気になり
遠回しに触れてみた。













『髪、凄く綺麗なのに どうしてそんな雑に…いや、何て言うか…長い方が似合うかもよ?』


『切られたんです。』
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