長編夢小説3

□八十五章
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久しぶりに訪れた黄泉の城。
離れの客間に通された一行は、畳の匂いが立ちこめる和室で黄泉を待つ。











『ママ、にがい…。』


『ごめん、玉露はまだ早かったか。後でお水かジュース貰おう。』











魔界の瘴気で急成長して、一歳半程の見た目の楓も
やはり苦い物は口に合わないようで、眉間に皺を寄せ口の端しから飲ませたお茶を全て垂れ流した。

談笑して10分程たった時、スッとスライドした襖から 黄泉が現れた。

静かに膝を折り曲げた黄泉はテーブルを挟み向かい合う私達へ微笑する。











『久しぶりだな。ん?』











何かに反応した黄泉は、私の方に顔を向ける。
その先は膝に抱えた楓だ。











『愛らしい妖気だ。こちらへ。』











テーブルを挟んだまま両手を差し出した黄泉へ、楓を抱き上げ渡した。
ふわりと抱えられた楓は、戸惑いながら黄泉の胸へ納まる。











『小さいね、やはり半妖は僅かに成長が遅い。』


『え⁉︎これで遅いの?普通じゃ考えられないスピードで成長してるんだけど…。』











呆気に取られた私は、南野を伺った。

クスクスと笑った南野は、玉露を啜り黄泉を見た。













『悪いな急に。手短に、樹の事で話がある。』



『樹?彼なら数週間前に消えたよ。』














全員の驚いた声が、部屋にこだました。

命を救ってもらった恩人への裏切りと取れる樹の行動に
一行のムードは不穏なものとなった。











『樹の野郎…。』


『そう荒げるな、浦飯。
単独で消えた訳じゃない分何か事情があるんだろう。恐らくお前達の事情と何か関係するのかもしれん。』











そう告げた黄泉は、ぐずり出した楓を宥めるべく 揺すり出した。

今にも泣き出しそうな楓を見て、少し尻を浮かせた私を差し置いて
南野は黄泉へ問いかけた。













『単独じゃないというのは?』


『あぁ、久柯と消えた。』
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