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□面倒な人
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俺は君に恋してる。
君は俺を笑ってる。
俺がいくら好きだと言えど、君は笑って答えるだけで。
答えを出さない。出してくれない。
「いつになったら答えをくれる?」
「さぁ。いつだろうね」
繰り返す問答はもはや恒例で、俺はひたすらに好きを繰り返す。
それでもやはり君は笑うだけで、飄々と受け流す。
「愛してると言ったら答えをくれるの?」
「簡単にその言葉を使うの?つまらないね」
好きじゃダメで、愛してるはつまらなくて。
じゃあ君が答えを頂戴よ。つまらない俺に模範解答を頂戴よ。
ねぇってば。
「じゃあ、どうしたら俺に答えをくれるの」
「さぁね」
「……わかった、質問を変えるよ」
これだけは恥ずかしくて言いたくなかったんだけど。
俺は君に早く振り向いてほしいから、奥の手を使うことにするよ。
俺は君の手を取って、無理やり俺のほうへ引き寄せる。初めて行動を起こした俺に、君は随分と驚いた顔をしていた。
視線を合わせるように向かい合って、俺は君の手をきつく握る。
「ねぇ、彰さん。どうしたら、俺のこと好きになってくれる?」
たぶん今の俺の顔は、羞恥で真っ赤に染まってるんだろう。
そして目が若干うるんでいるだろう。
恥ずかしさで泣きそうで、不安で心がつぶれそうだ。
それでも答えを待とうと、君の顔を見ると君は目を大きく見開いて、そしてそのあと「ぷっ」と噴出して笑った。
「え」
「あはははははっ!そう来たか!うん、うん。よく頑張った。かわいい顔してるよ」
「は」
え、なに?意味が分からない。
なんで俺笑われてんの?なんでこの人はこんなに笑ってるの?
俺が手を握ったままだから、腹を抱えてはいないけど、手を放したら間違いなく、文字通り腹を抱えて笑うに違いない。
ぽかんとした顔で俺はその顔を見続け、呆けた状態が治ったのは、彰さんがひとしきり笑い終わった後だった。
「彰さ……」
「お前、バカだなぁ」
「え」
今度はバカにされた。
なんだ。なんなんだ、この人は。
むっとして、笑いすぎてうっすらと涙を浮かべている彰さんの顔を見る。
彰さんは視線に気づき、すぐにいつもの笑顔を見せ、俺の頭をぽんぽんっと撫でた。
「!?」
「なに驚いてんの。かわいいな」
「えっ、えっ?」
彰さんが俺にかわいいとか言ってる……!
彰さんが、彰さんが……!
「犬みたい」
「……犬……」
「うん。大型犬みたいで、かわいい。俺に懐いてるとこもかわいい」
「彰さんのデレ大放出……」
「お前はバカだ」
「うん……。彰さんがいつもこんなだったら、俺バカでいい……」
「本当にバカだな」
彰さんのいつも通りの暴言を受け止めながら、頭の中が花畑になるのを止められない。
好きだと言い続けてから初めてのデレだ。浮かれないはずがない。
だけど、しかし。
「彰さん」
「ん?」
「……まだ答えをもらってないよ。俺」
「あ?あぁ、そうだな」
彰さんは俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でまわして、俺の服の襟をぐいっと掴んで引き寄せた。
鼻と鼻がくっつくような距離に俺はどぎまぎしながら、相変わらず余裕の表情で笑う彰さんを見つめた。
「お前はバカだよ。俺はとっくにお前のこと好きなのに、どうしたらとか今更だろ」
え?
と、思わず聞き返そうとした口は、彰さんのせいで塞がれた。
「…………彰さ、ん?今の……」
顔に熱がたまっていくのが分かった。
唇に指をやって、今の感触を思い出す。また顔に熱がたまった。
彰さんは相変わらず余裕の表情で、俺を見つめる。
そして、やっと
「好きだよ、壮太。お前が好きだって言う前からずっと」
俺の待ち焦がれていた答えを、君の口から聞くことができたんだ。