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□変わらない夏の日に
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 それは暑い暑い夏の日で、その日はとっても綺麗な満月で、
 僕はあの日を思い出して思わず顔がにやけてしまう。


「りーつ?何にやけてんの」

「うぉっ!?隼人、重いっ」

 いつの間にか後ろにいたらしい隼人が、後ろから伸し掛かってくる。
 自然と抱きしめられる形になってしまって、少し顔が熱くなった。

「どけっ!なんで抱きついてくんだよっ」
「えー?律が空見上げてにやけてるから、気になっちゃってさー」
「別に……っ!月がきれいだなって思ってただけだよ!」
「…………あぁ。なるほどね。思い出してたのか」

 しまった、墓穴掘った……っ。
 急に顔を掴まれて後ろに向けられる。首が痛い。
 
 すぐさま視界には隼人がドアップで移りこんできて、心臓が急に早く鳴り始める。

「はや……」
「“あの時”のこと思い出してたんだろ?」
「ち、ちがう。んっ」

 軽いキスに、思考が完全に溶かされるのを感じた。
 いつまで経っても変わらない、隼人の意地悪な目が僕を捉えて離さない。

「ちがわない。ははっ。律、顔真っ赤ー」
「赤くないっ!放せ、ばかっ!」
「やだー。も少しこうしてるよ」
「…………少しだけ、だからな」

 顔は隼人の言うようにきっと真っ赤だろう。
 だって今、すごく恥ずかしい。
 隼人がすぐ後ろにいて、僕は隼人の腕の中にすっぽり収まっている。

 いくつになってもやっぱり恥ずかしくてしょうがない。

 そんな僕に隼人は追い打ちをかけるように耳元でそっと囁く。


「愛してる、律」

「―――っ!!」

 恥ずかしさが沸点を超えて、心臓は打つ速さを増していく。
 あぁもう、バカだな。
 こいつと一緒にいて何年になるんだ。もう十年は一緒にいるのに、なんでなんで。

 こんなに恥ずかしくて、嬉しいって感じちゃうのかなぁ。

「あれ、律?」
「…………隼人」
「え、は、はい」
「…………」
「え?わっ!?」

 無言で隼人の腕をひっぺっがして、足を崩して押し倒す。
 多少強引だけど、まぁいいだろ。男だし。

「いっつ……。律?」
「あのさ。僕こういうの言葉にするの、苦手だから、どう言ったらいいのかわかんないんだけど」
「え?」
「お前みたいに直接的なこと、言えないけど。でも、僕だって、その……」

 隼人が無言で僕を見つめる。
 その目に浮かぶ、期待の色。

 あぁ、そんなに見つめないで。恥ずかしくなる。

 何度か口を開いては閉じて、ようやく腹を決めて、隼人の目を見つめた。
 同じようにまっすぐ見つめ返されて、また恥ずかしさが込み上げる。

 だけど、言わないと。
 だって今日は。


「隼人、あのっ」
「うん」

 ぎゅうと隼人の服を掴んで、なんとか声が震えるのを抑えようとしてみる。


「僕は……っ、これからも、お前と、隼人と!

 ずっと、ずっと一緒にいたい……っ!」


 あぁもう、声震えてしょうがないよ。
 顔も赤いし、不格好だなぁ。
 
 だから隼人、そんな嬉しそうに僕を見ないでよ。恥ずかしいから。

「律」
「…………」
「俺は言われなくともそのつもり」
「は」
「たとえ律が嫌って言っても、一生ずっと律を離す気なんてないから。覚悟しとけ」
「はっ!?」

 ちゅっと指先にキスをされて、顔の赤みはピークに達した。

「律、愛してる」
「……僕も」


 あぁもう、これだからこの男は。
 
 きっとこれからも、こうやって僕の心を取っていくんだろうな。
 そして僕はそれを望んでいるんだろう。


「離したら許してやらないんだから」
「一生離すわけねぇよ。なんせ初対面から大好きだから」



おわり!
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