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□狐と主人
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 春の暖かい風が吹き、縁側の桜が満開を迎えた頃、縁側に腰かけて、うたた寝をしていた少年は奇妙な感覚に襲われた。

 何かに包まれているような不思議な感覚。

 頭の中に誰かがそっと囁いてくる。

『もう……良いだろう?時は満ちた。さぁ我と……』

 何を言っているのだろう。この問いかけは一体誰に言っているのか。

 そこでふと目が覚める。何かに導かれるように、急に。


「ん……?」


 何度か瞬きをして、ようやく異変に気付く。
 誰かが、いる。


 おかしいおかしいおかしい。


 父さんは一昨日から帰ってきてない。
 今日は友人も来ていないし、呼んでいない。

 じゃあいったい誰が?

 急に覚醒した頭は、キリキリとせわしなく回る。あらゆる可能性が頭を回り、浮かんでは消える。

 しかし後ろを振り向く勇気も出てこず、どうしたらいいかと体が強張ったまま動けずにいた。

(なんだ?なにが起きているんだ?いやしかし気のせいという可能性もあるし、どうすれば……)

 頭の中でぐちゃぐちゃになりながら、ひたすら考えを纏めようとする。
 しかし焦った頭じゃろくな考えも浮かばない。

(どうする、どうする、どうする……っ?)

 泥棒、強盗、はたまた無差別殺人犯。
 こんな田舎であるものかと思っていたが、もしかしたらあるのかも。
 そんな考えが頭に浮かぶ、そして信じたくないとその妄想を消す。

 そんなことを繰り返すうち、行動を起こしたのは後ろにいる“なにか”だった。


「気づいてるなら声くらいかけろよ!!」


 ぐいっと肩を掴まれて、後ろに倒される。
 突然の行動と、若い男の声に頭が理解が追い付かずに混乱する。

「な……、誰っ!」

「その前に少し説教だ!お前、気づいてたんだろ!なのに無視するとは!!さみしいんだぞ!」
「はぁ?」

 なんだこいつは。
 ようやく理解の追いついた頭が、やっと仕事をし始める。

 視界に映るその不審者“なにか”は、銀髪がキラキラと光る吊り目の男だった。
 そして頭になぜか獣の耳が生え、デカい尻尾が後ろでゆらゆらと揺れている。

(……なんだ、こいつ。変態か……?)

「変態じゃない!狐だ、狐!!妖怪だよ、妖怪!お前に憑いてるな!!」

「………………」

「信じたか!」
「あ、もしもし警察ですか?今うちに不審者が……」

「やめろ!不審者じゃない!」
「人の家に不法侵入しておいて?」
「お前の父と知り合いなんだ!合鍵を貰っている!!」

「……父さんと?……あ、はい。はい。すいません、父の知り合いだったようで……はい、大丈夫です。お騒がせしました。


 で?」


「で?っておま……本当に警察にかけてたのか……」
「怪しい人物を見かけたら通報する。これ常識です」
「ずっとお前のそばにいたのに怪しい者呼ばわりとはまた……」
「……ストーカー……?」
「違う!!東はなんの説明もしてないのか!」

「父さんは今いません。お引き取りください」

「お前に用があるんだよ、お前に!!」

「おれはないです」

「そうじゃなあああい!東あああ」


 自称狐の妖怪は父さんの名前を叫びながら、どこかへ行ってしまった。

 まったく、なんなんだ、あの不審者。


「ん?いや、勝手に家を歩かれるほうが問題だ!!

 ちょっと!戻ってこい!!狐!!」





つづかなあああああい
 

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