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□嘘つきなあなたのせい
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気づけば放課後だった。
どうやら誰も起こしてくれなかったらしく、教室には俺一人だけだ。
夕日に照らされながら、このまま少し教室に残るのも悪くないとは思ったが、今日はおとなしく帰ろうと思う。
帰る支度をしようと鞄を開けると、一番に手紙が目に入り、そういえばと思い出した。
「俺、呼ばれてたっけ……。今何時だ?」
ケータイ、ケータイ……あー、まずい。もうすぐで五時になろうとしてる。
俺は机の中の物を適当に鞄に突っ込んで、少し急いで物理準備室へと向かった。もしかしたらもう帰ってるかも、と思いながら怒られない程度の駆け足で、準備室のある三階へと向かう。
途中、
「あ、アキー。どこ行くんだよー」
「アンタには関係ないだろ」
先輩とかいう存在に声をかけられた気もしたが、それより待たせている彼の方が大事だ。うん。
+++
がら、と準備室のドアを開けると、彼はドアのあいた音に気づいて、こちらを見た。
「あ、き、来てくれたんだ……!よかったぁ、すっぽかされたかと思っちゃった」
へにゃ、と顔全部の筋肉を緩めて笑う彼は、女子の言うように確かに可愛らしいな、と思った。
「で、要件は?」
俺は言いながら、準備室のカギを閉めた。
「……分かってるのに、聞かないでよ。意地悪だなぁ、黒井君」
彼は手紙を渡してきたときの恥ずかしがりようが嘘のように、余裕を持って俺と話をする。
俺は静かに彼に近づいていく。
「要件は?」
「意地悪。そうやって、いっつも言わせてるの?」
「さぁ、どうだろうね。君は初めての人だよね、俺あんまり人の顔憶えるの得意じゃないんだ」
するりと頬を撫でると、彼はくすぐったそうに目を細めて、俺の手に自分の手を重ねた。
「そうだよ。初めて。へへ、手紙渡すとき緊張しちゃったぁ。なんか告白みたいでドキドキもしたし」
「こっちも告白かと思って、ビクビクしたよ。本気になんてなられたら困る」
「……そ。それはそれでちょっと残念」
重ねてきた手を離し、彼は俺の頬に手を当て、少し背伸びをして、唇を重ねた。
ちゅ、と軽いリップ音が静かな部屋に響くようでなぜだか、ゾクゾクと心が楽しそうに震える。
「黒井君、抱いて」
「……いいよ」
彼の瞳は真っ黒で、情欲に塗れたものだった。恋してるなんて純粋でキラキラしたものなんかじゃない。
だから好きなんだ。やめられないんだ。
この行為が。