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□嘘つきなあなたのせい
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彼は終わった後、ありがとうと言って、帰って行った。いくら?とも聞かれたけど、お金は取ってないから、いらないとだけ言った。
この行為をやり始めたのは一年前。高校一年の時。
本当の意味で、根暗を通そうとしていたころだった。
あの時は、別に男に興味なんてなかったし、どちらかといえば女が好きだった。
けど、入学してしばらくしないうちに、一つ上の先輩から声をかけられた。
『俺のこと、抱いてくれないか?』
最初は、気持ち悪いなぁと思ったけど、彼があまりにも必死そうにするから、しぶしぶ体を彼に預けた。そしたら思いのほかハマってしまって、今に至る。
でもね、本当のところ俺はタチをやりたくはないんだよね。
本当はさ、あのグチャグチャしてる、とろんとした瞳じゃなくて、もっと別のが欲しいんだよね。
そうたとえば。
「あ、アキみーっけ」
「こーじ先輩」
捕食者みたいに鋭い、今にも食って殺そうとするような瞳が。
声をかけられて顔を上げると、さっき途中ですれ違った光司先輩が、準備室のドアを開けて立っていた。逆光で顔は見えないが、笑っているのは分かる。
先輩はいつもみたいにヘラヘラ笑いながら、鼻をつまむしぐさをして、
「なに?後処理の最中?精液くさいよ、お前」
と冗談交じりに言った。
「え、嘘。ちゃんと消臭スプレー撒いたのに」
それを少し真に受けながら、カーディガンの臭いを嗅ぐ。大丈夫だ、そんなに臭ってない。……たぶん。
鼻がマヒしてるかもしれないけど。
「ほら、後処理終わってんならかえろーぜ」
「え、うん。待って。かばん」
適当にほっぽり投げてた鞄を持ち、まだドアのところで、塞ぐみたいにして立っている先輩のもとへと行く。
すると、バンッと音を立てて戸が閉まり、同時にガチャンと鍵のしまる音がした。
「……へ?」
「……あれぇ?閉まっちゃったね。なんでだろね」
「…………」
なんか、変だ。もしかして、何か怒ってるのか?この人。さっき適当にあしらったからか?
明らかに自分で閉めておきながら、なんでだろうねと笑顔で言う先輩。
ようやく光がさえぎられて、顔をはっきり見ることができた。
先輩の顔は、瞳は爛々と輝いてるように見えた。