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□嘘つきなあなたのせい
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今日も窓際の席にいる。
もっさい黒髪、厚めのレンズに黒縁メガネ。着ているカーディガンの袖は伸びきっていて、いわゆる萌え袖状態。背は高くも低くもない平均くらいで、猫背気味。必ず学校に一人はいる、根暗な男子。
そういうポジションで、学校生活をやっていくはずだった。
はずだったのに。
「くっくく黒井くん!!」
「……はい」
声をかけてきたのは、クラスで女子に可愛いなどと言われている男子だった。
なぜか顔を赤くして、ぷるぷる震えている。
じっと彼を見つめていると、彼は震える手で俺に封筒を手渡してきた。
「こっ、これ!読んで!」
「え」
「そ、それじゃ!」
「えっ、いや」
なに、こんな女子みたいなことやってんの?好きな男に渡すラブレターじゃあるまいに。
違うよね?
ちら、とさっきの男子の席を窺うと、彼は恥ずかしそうに、真っ赤になった頬に手を当て、同じようにこちらを窺い、目が合ってしまってパッと逸らしていた。
「えぇ〜……」
これはあるぞ。ラブレターの可能性濃厚だぞ。
思わず眉間にしわを寄せながら、可愛らしいシールでとめられた、封筒を開ける。
中から出てきたのは、白の普通の便せんで、内心少しホッとしてしまう。
もしここで、女子力高めのピンクの便せんなんて出てこようものなら、俺はこの場でこれを破り捨てて、なかったことにしようとしただろう。
改めて心を落ち着けて、手紙に目を通す。そこには、綺麗に整った字で
『放課後、物理準備室で待っています』
と、それだけ。
それだけなら直接口で言えばいいのに、とも思ったがあれだけ、顔を真っ赤にしていたのを察するに、これが一番楽で安全な方法だったのだろう。
告白ではなくて安心しつつ、ならこの呼び出しはなんなのかと考える。
呼び出しの心当たりがないわけではないが、それでも彼が、と思うと少し意外に感じてしまう。
「……まぁ、いっか。放課後ね、放課後」
手紙を鞄にしまい、眠りながら今日最後の授業を受けた。