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□あなたが一番、嘘つきは二番
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夏は暑くて、喧しくて、鬱陶しい。
うちわで扇げど扇げど、一向に涼しくはならなかった。いっそクーラーでもつけたいが、あいにくこの部室にクーラーはない。もっと言うと扇風機もない。
「あーあっぢぃー……」
「うるぜー、あちぃとか暑いとこで言うんじゃねえよ。氷で殴るぞ」
「氷持ってきてから言えや」
部員たった二人の、弱小陸上部の小さな部室のベンチの上で、男二人がそれぞれ逆向きに寝そべってうちわで扇いでいる。
たった二人しかいない部屋なのに、夏の熱気と相まってむさ苦しさが尋常でない。
ぱたぱたとうちわを動かしていたもう一人が、急にぱた、と扇ぐのをやめて俺に話しかける。
「そういえばコージさぁ」
「あー?」
「あの子と仲良くやってんのかよ?」
「あ?」
「ほら、あの子。一個下のさぁー。黒髪のー」
「あぁー」
「どんな感じぃ?今」
「あー……」
「面倒だからって全部あで返すんじゃねえよ」
「……あーめんどくせぇな、お前」
ぱたぱたと緩慢にうちわを動かして、黛 真一(マユズミ シンイチ)ことマユの言う、一個下の黒髪の後輩のことを考える。
黒髪でもっさもさで根暗を装ったクソビッチ。あー会いてえなあ。夏休みに入ってから一回も会ってねえし。
つづきはまた