short story

□ヤマブキでの攻防
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「…………一流のトレーナーを目指すなら、ちゃんと周囲のことも気にかけて」

 取り敢えずコノハ行きつけのカフェに避難し、適当に飲み物を頼んでから始まったお説教タイム。
 これまでは二人の言い争いも声を張り上げ続けることで止めてきたが、今はポケモンたちの技をお見舞いするだけで止められるので、コノハの労力も少し軽減された。しかし、その後のお説教では変わらずエネルギーを使わされる。しかも今回は二人だ。
 サトシにはよくその無鉄砲さや馬鹿さ加減からお説教をすることは多々あったが、シゲルにする事はあまり無かった。
 だが今回は、久しぶりにコノハと再会した事によって思考力が低下したのか何なのか、原因ははっきりと解らないし解るつもりもないが、あんな道のど真ん中でサトシを挑発し続けていたシゲルにも苛立ちと怒りの矛先が向いても不思議ではない。

「……2人が喧嘩するのは昔からだけど、場所は考えて」

「「……スミマセン」」

 コノハから送られる冷ややかな視線に二人は縮こまる。普段、余裕たっぷりなシゲルもコノハには頭が上がらないようだ。これも惚れた弱味というやつなのかもしれない。

「こういう事は金輪際やめて。今回は見逃してあげるけど、次やったら冗談抜きで牢屋にぶち込むから」

「「……はい」」

 幼馴染だからこそ遠慮無く、幼馴染でも容赦の無い。そんなコノハの瞳から伝わる彼女の本気。もう間違えたら次こそ、本っ当に終わりだ。再び二人の心はシンクロした。

「とりあえず、この話はもういい。あんな大事になるまで言い合うくらいなら最初から三人で過ごせば良かったのよ」

「……え、シゲルも一緒?」

「僕はコノハと二人きりがいいんだけど」

「何?まだ何か文句ある?」

「「ありません」」

 アップルティーを飲みながらギロりと鋭い視線を向けるコノハに二人は再び縮こまった。
 これは暫く言う事を聞いておかなければ、余計に火に油を注ぐだけだと判断し、大人しく三人で過ごす事にした。お互い相手がいる事に不満はあったが、コノハを怒らせるよりはマシだ。

「そ、そういえばコノハ、入学試験合格したんだね」

 気まずい雰囲気を変えるために、シゲルは話題を転換した。
 コノハが着用しているものは、探偵学院の制服。つまり、コノハは学院の入学試験を合格したことになる。

「……うん」

「試験って難しかった?」

 基本的に好奇心旺盛なサトシは、ポケモンやバトル以外にも色々と知りたがる性格だ。但し勉強やそれに関連した頭を使うことは例外だが、それでも様々なことに目を向けるサトシの性格はコノハも高く評価していたりもする。本人に言うと調子に乗る為話してはいないが。
 興味津々なサトシに、コノハはパクリとアップルパイを口に入れてから話を始める。

「筆記や実技試験は別に問題は無かったの」

「それ、コノハだから言えることなんだよな……」

 自分にとっては絶対に有り得ないことをサラリと言ってのけるコノハにサトシは苦笑を浮かべる。

「……ということは、それ以外のものはコノハでも難問だったわけか」

「……ポケモンとの協力ミッションがどうしても難しくて。育て方が大きく関わってくるものだから」

「なるほど」

「ポケモンとの協力ミッション?」

 頭を使いながら周囲の環境を上手く利用して、障害物を避けながら、自分のポケモン達とゴールを目指すという試験だ。
 筆記や実技は幼い頃から行ってきた勉強やトレーニングが物を言う。後は得意不得意にもよるが、この二つに関しては全体的にみてあまり力の差はない。だが、その試験課題でどんどん減点されていく。

「ポケモンを貰ってまだ日が浅い新人(わたし)にとっては難しくて……ポケモンの知識を持っていても、実際にポケモンを持って育てるのとはまた訳が違うから」

「でも合格できたんだろ?ならいいじゃん」

「それはそうだけど……」

 眉間に少し皺を寄せるコノハとは対照的に、サトシはケロッとした様子でジュースを飲み続けている。

「まあ、お気楽すぎるサートシ君はともかく……」

「誰がお気楽だよ!」

「難関といわれるその試験を通過出来たということは、それなりにポケモン達もしっかりと育てられていた、という事だろう?あまり気に病む必要は無いさ」

「……そう、かな」

 頭の回転も早く、物事を様々な角度で捉えられるシゲルの言葉には説得力がある。
 一人前のトレーナーを目指す者として、そしてオーキド博士の孫として、ポケモンについて勉強してきた彼の言葉だからこそ納得できる部分も多いのだろう。何より、ポケモンについての知識はコノハよりもシゲルの方が豊富なのだ。

「それに、コノハのことだからポケモンの育成にも抜かりは無いんだろう?」

「……うん」

「なら大丈夫さ」

 シゲルがニコリと優しく微笑んで言えば、コノハもクスリと笑を零す。
 そんな二人の様子をサトシは面白く無さそうに眺めながらストローを吸っていた。その時、何か思いついたのか、いきなりガタッと音を立てて立ち上がる。

「……どうしたの?」

「なあ、コノハ!コノハのポケモン見せてよ!!」

「…………私のポケモン?」

「うん!気になってさっ!」

「ああ、それは僕も気になるね。コノハがどんなポケモンを仲間にしたのか」

 目をキラキラと輝かせるサトシと、珍しくサトシの意見に同意するシゲル。何故コノハのことになるとこんなにも意見が合うのだろうかと一瞬思った二人だったが、深く考えれば考える程面白くない為に無理矢理流すことにする。

「……別にいいけど」

「よしっ!じゃあ、早く外に行こうぜ!」

「ちょっと待って」

 店を飛び出そうとするサトシの後ろ襟ぐりを掴んで引き戻す。グエッと苦しそうな声を上げた後に「何だよ!」と文句を言うためにコノハの方へ顔を向けた。そこには目を半眼にしてサトシを睨む”こわいかお”があった。

「まだアップルパイも紅茶も完食してないでしょ」


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