short story

□ヤマブキでの攻防
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 三人は近くの公園に立ち寄った。大きな噴水広場には、たくさんのトレーナー達がポケモンとトレーニングに励んでいたり、子供たちがポケモンと遊んでいる。
 コノハは腰につけてあるモンスターボールを手に取った。ボールの数は五つ。内一体は、コノハがオーキドから貰った最初のポケモン・フシギダネであることと、さっき2人に技を放ったイーブイであることは知っているが、他は旅に出た後のものなので解らない。

「……出ておいで」

 ボールを空に向けて放り投げる。高く宙へと放たれたボールから、それぞれ光と共にポケモンたちが姿を現した。

「おお!!」

「へぇ、これがコノハのポケモンか……」

 光が止み、形となって出てきたのはフシギダネ……ではなく、進化を遂げたフシギソウ。そしてイーブイ、バタフリー、プリン、ロコンの五匹だった。

「そう!」
「いっぶい!」
「ふりぃ〜〜」
「ぷりゅ!」
「こんっ!」

 それぞれ、元気よく鳴き声を上げるコノハのポケモン達のコンディションは文句無しのものだ。

「よく育てられているね。皆元気そうだ」

「ありがとう」

 ポケモン達の前に片膝をついてしゃがみ込み、一匹ずつ観察したシゲルの正直な感想だった。この様子なら、試験で合格点を貰っても十分可笑しくはないものだ。

「コノハのフシギダネ、フシギソウに進化してたんだな!」

「うん。ついこの間に」

「そ〜う」

 ニコリと微笑むフシギソウ。このフシギソウは、かなり穏やかな性格をしているのだということが伺える。

「ぶいーっ!」

 対してイーブイはコノハに目を向けた途端、嬉しそうに飛びつく。よっぽどコノハに懐いているようだ。パタパタと左右に動く触り心地の良さそうなモフモフの尻尾がそれを物語っていた。
 バタフリーは気まぐれなのか何なのか、あちこち動き回っており、マイペースなプリンは立ったまま居眠りを始めている。身だしなみには気をつけるタイプなのか、ロコンは上品に毛繕いをしていた。

「何というか、コノハのポケモンは個性的な子ばかりだね」

「……やっぱり、そう思う?」

 それぞれ違う行動を見せるポケモン達を眺めながら苦笑を浮かべた。フシギソウもやれやれといった様子で溜息をついている。どうやらそう言った大人な部分はコノハに似たようだ。

「でも、個性的な方が楽しいじゃん!な?ピカチュウ」

「ぴぃか!」

「……そういえば、気になってたんだけど、どうしてピカチュウはボールに入っていないの?」

「えっ……いやあ、それは……」

 言い淀むサトシにコノハは首を傾げた。イーブイは気持ちよさそうに彼女の腕の中に収まったままである。
 コノハもたまにイーブイやフシギソウを外に出しているが、サトシは一向にピカチュウをボールの中へ戻す様子が無い。それがさっきから気になっていたのだ。

「……ピカチュウ、ボールの中にいるのが嫌いみたいでさ」

「え、そんなポケモンいるの?」

「ぴかちゅ」

 コクリと頷くピカチュウ。普通はモンスターボールの中に入れて持ち歩くものだ。その為にポケモンがボールの中に入ることは当たり前だと思っていたコノハにとっては衝撃だった。

「稀にいるらしいよ。サトシのピカチュウみたいに、ボールの中に入るのが嫌なポケモンは」

「……色んなポケモンがいるのね」

 自分達のポケモンと同じでそれぞれ個性がある。そうやって考えてみればボールの中に入ることを嫌う類がいてもおかしくはない。

「…………あれ。ねえ、ピカチュウってもしかしてサトシの最初のポケモン?」

「あ、そっか。コノハは先に行ってたから知らなかったんだな。ピカチュウは俺の相棒なんだ!」

「ぴぃか!!」

「……やっぱりサトシに渡すポケモン、残っていなかったのね」

 大事な日にパジャマのまま研究所へ走って来たあの日のサトシを思い浮かべては、溜息をつく。

「まあ、あの時君は最初から寝坊して来たからね。ピカチュウがいただけマシさ。おじい様に感謝しないとダメだよ?サートシ君」

「わかってるさ!言っとくけど、確かにあの日俺は寝坊して三匹の中から選ぶことは出来なかったけど、パートナーがピカチュウで良かったって思ってるぞ!!」

「ま、たまたま君とピカチュウの相性が良かったんだろう?」

「…………そんな事ないよ!最初は言う事を全然聞かなくって大変だったんだからな!」

「……え?」

 その言葉にコノハは目を丸くした。ピカチュウは随分サトシに懐いているように見える。てっきり、自分とフシギソウのように最初から仲が良いのだと思っていたが、そうではないらしい。

「……サトシも苦労してたのね」

「何だよその言い方……!」

「呑気に旅をして来たとでも思ったんだろう?なんせ、サートシ君のことだからねぇ」

「……別にそういうわけじゃないけど」

 さっきから嫌味を連発するシゲルに苦笑した。長年サトシの無鉄砲さに振り回されてきたコノハだが、シゲルのその嫌味な性格もどうにかならないかと悩んでいたりする。

(この旅を通して、変化があればいいんだけど……)

 溜息をついて空を仰げば、ポッポの集団がスイスイと空を泳いでいた。楽しそうに飛んでいるポッポ達を目に映し微笑んだ時──

「キャーーーッ!!」

「「「!!?」」」

 どこからか悲鳴が聞こえた。一体何があったのか。三人は顔を見合わせ、悲鳴から方角を特定しそこへ向かって走り出した。全速力で──


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