short story

□中編
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決勝トーナメント一回戦。サトシvsシゲルのフルバトルはサトシが勝ちを収めた。

一進一退の攻防が続く中、終盤は三体もポケモンが残っていたシゲルに対し、サトシはリザードンの一体しか残っていなかった。殆どの人がシゲルの勝ちだと思ってもおかしくはなかったが、最後まで何が起こるかわからない。それが勝負というものだ。
シゲルの最後の一匹、彼の最強パートナーであるカメックスと、サトシのエースポケモンであるリザードン。
その戦いも相性でいえばシゲルの方が圧倒的に有利だった。しかし、フィールドを上手く利用したサトシの逆転勝ちとなったのだ。

そんな幼馴染二人が戦う姿を観客席から見ていたコノハはバトルの決着がついた後、歓声に混じって大きな拍手を送った。
今まで共に過ごしてきた中で、一番良い表情(かお)をして戦っていた二人を見て、自分の心に熱いものが込み上げてくる感覚を覚えた。

「コノハーー!!俺、シゲルに勝ったぜ!」

会場から外へ出ると、先程までフィールドに立っていたサトシがピカチュウを肩に乗せて駆け寄って来た。

『うん、ちゃんと見てたわ。おめでとう、サトシ』

「ああ!サンキュ!」
「ピカッ!」

満面の笑顔で大きく頷くサトシ。ピカチュウも嬉しそうに声を上げる。コノハはそんな一人と一匹にクスリと笑むと、そこからゆっくりと視線を空へ移した。
真っ青な空を瞳に映し、幼い頃の記憶を引っ張り出しながら静かに口を開く。

『……なんだか、ちょっと不思議な感覚だった』

「え、不思議って?」

いきなり意味のわからないことを話し出したコノハに、サトシはこてんと首をかしげる。

『今日の二人は、私が知っている記憶の中の二人と違って見えたの。同一人物なのにね』

「え」

まだ疑問符を浮かべるサトシに、コノハはフッと笑みを零して続けた。

『昔は、二人がどこかすれ違っている様に見えてた。ライバル視していたのもサトシの一方通行だったし、シゲルだってサトシのこと、いつも馬鹿にしてたでしょ』

「ああ、そういや……そうだな」

同じように、サトシも幼少の頃のことを思い出したのか、少し恥ずかしげにポリポリと頭を掻く。

『旅に出てから初めて会った時もそれは変わっていなかった。なのに、いつからか貴方達の関係は変わっていた。本当に、何事も無かったかのように、自然とね』

きっと二人の関係が変わり始めたのは、二人が初めてポケモンバトルをした時。ジョウトに旅立つ直前の話だ。
丁度サトシがオレンジ諸島での旅を終えた頃、別の場所で修行を積んでいたシゲルもマサラタウンに戻って来ていた。

シゲルはカントーリーグでの敗北から初心に帰ってトレーナーとして腕を磨いていた。
対して、オレンジ諸島で開かれたウィナーズカップで優勝したサトシはその結果に満足し、どうやら天狗になっていた様だ。その証拠に、サトシはシゲルとの初めての対戦で負けてしまった。だが、それが再びサトシの目を覚まさせる薬にもなった。

コノハが思うに、この時初めてまともに二人が勝負をしたように感じたのだ。

「……やっぱり、コノハから見てもそう思うんだ」

『へぇ、気づいてたの』

「なんだよその言い方」

自分に自覚が無かったようなことを言うコノハに、サトシはじとりとした視線を向ける。

『冗談よ』

「コノハの冗談は冗談に聞こえないんだよ」

二人でクスリと笑い合う。こうして過ごす時間も久し振りだった。以前会った時は、ルギア親子の事件やらいかりの湖の事件やらで再会を喜ぶ時間は一瞬足りとも無かった。

『……明日は、ハヅキさんって人とバトルだったわよね?』

「ああ!」

『頑張って。今のサトシなら、きっと大丈夫よ』

少し高くなった肩に、ポンと手を置いてポケモンセンターへ向かおうと足を進めるコノハ。サトシは「おう!任せとけ!」とグッドサインを見せてニカッと笑う。

──旅に出る前までは身長も同じくらいだったってのに、いつの間にこんなに差ができたのかしらね……。

同い年で旅立った日も同じなのに、何時までも心は姉の気分だ。相変わらず今でも無鉄砲で危なっかしい部分はあるが、確実にサトシは夢に向かって前進している。

ぐんっと成長を見せるサトシに対し、少し寂しさと嬉しさが入り混じった感情を胸に、コノハはクスリと笑を零す。

『あ、そうそう』

急にピタリと足を止めサトシと方へ振り返る。

『リーグが終わったら、少し私に付き合ってくれない?』

「え、うん……」

コノハから発せられた予想外な言葉に、サトシは少し戸惑いを見せながらも頷く。そんなサトシの返答に満足したコノハは、『ありがとう』と一言添えてから再度ポケモンセンターへと止めていた足を動かした。

サトシは去っていくコノハの背中をボーッと眺めながら呟いた。

「……アイツ、なんかあったのか?」


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