short story

□僕の精神的支柱
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サイドストーリー『ポケモン研究者シゲルと復活のプテラ』より




「僕は、ポケモン研究者として失格ですね……」

 現在起きている予想外の騒動に、僕は肩を落として、目の前を歩くオーキド博士とケンジに向かって呟くように吐き出した。

 シロガネ大会を終え、ポケモントレーナーを引退した僕は、ポケモン研究者となるために、すぐに旅へ出た。
 その途中、ひみつのコハクを発見し、ここサイダ島の研究所へ持ち込んだのだ。プテラのたまごの化石を復活させる鍵となるのではないか、そう考えてコバラ博士と研究を進めていた。
 そして、ようやくプテラを復活させることができたのだが、逃がしてしまったのだ。

「何を言っておる、プテラ復活は成功したんじゃろ?」

「すごいことじゃないか!」

 落ち込んだ様子を見せる僕に、オーキド博士もケンジも、責めることなく励ましの言葉を送ってくれる。それでも自分の不甲斐なさに、心は重たいままだった。

「でも、その後のことを考えてなかった……」

 研究者を目指すのであれば、今回のような事態だって、想定しておかなければならなかったのに。

「お前がそんなことでどうする」

「サトシやコノハだって頑張ってるんだよ!」

「サトシ、コノハ……」

 ケンジの口から出た幼馴染2人の名前に、自分の表情が緩む。
 研究者として旅に出てから2人とは全く会えていない。僕が把握しているのは、サトシもコノハもホウエン地方で活動しているということのみ。
 これまでは同じ地方を旅していたため、旅の途中に出会うこともあった。けれど、進む道が変わったことで、会う機会も減ってしまった。
 彼らはどうしているんだろうか。また無茶はしていないか。2人とも危険に巻き込まれやすい上、誰かのためにすぐ飛び込んでいくようなお人好しだから……少し心配だ。まあ、あの2人なら大丈夫なんだろうが──

「2人は元気ですか?」

「ああ、この間もサトシから連絡があってなあ。ホウエンリーグのバッジも結構集まったそうじゃぞ」

「それに、色んなポケモンもゲットしてるってさ!」

「コノハの方も相変わらず仕事で忙しいみたいじゃが、困っている人やポケモンを助けるためにと、ホウエンでも活躍しとるそうじゃ」

「この前も探偵のランクが、プラチナランクからエリートランクまで飛び級したって聞いたよ!」

「そっかあ……」

 オーキド博士とケンジから聞いた幼馴染たちの近況に僕は安堵した。どこに行ったって、サトシはサトシらしく、コノハはコノハらしく、自分たちの目標に向かって突き進んでいるのだと。
 その事実に安心すると同時に、どうしようもない不安が顔を出す。

「僕も……もっとトレーナーとして旅を続けた方がよかったのかな……」

 目標が変わって、新たな冒険に出て、度々思うことがある。

 僕は本当にポケモン研究者に向いているのだろうか。
 オーキド博士のような、立派な研究者になれるのだろうか。

 もしくは、研究者を目指すにはまだ早かったんじゃないか……トレーナーとしての経験をもっと積んでから、研究者となる道を選ぶべきだったのではないか。
 そんな不安がグルグルと心の中で蠢いていた。そんなことを考えてばかりいるせいか、最近は少し思考力も鈍り、弱気になっているように感じられる。

「シゲル」

「……え」

「お前の新たな旅は、まだ始まったばかりなんじゃ」

「そうさ!君ならきっと良い研究者になれるよ!」

「……うん!」

 オーキド博士とケンジの言葉に、僕は顔を上げて強く頷いた。
 そうだ、オーキド博士の言う通り、僕の、研究者としての旅は始まったばかり。弱気になるのはまだ早いし、そんなことをしている場合ではない。落ち込む暇があるのなら、前を向かなければ。
 サトシだって、コノハだって、同じだなんだ。壁にぶち当たっても乗り越えていく。僕が立ち止まっている間にも、2人は自分たちの道を進んでいるんだ。

(……負けていられないからね)

 進む道は3人バラバラだが、そんなことはどうだっていい。僕にとって彼らは単なる幼馴染じゃない。ライバルなんだ。置いていかれるわけにはいかない。


『……別にいいと思う。研究者の道に進んだって。むしろシゲルにはそっちの方が向いてるかもね。元々勉強とか嫌いじゃ無かったんだし』


 そう言えば、コノハにもこんな事を言われたな。あれは確か、シロガネ大会でサトシとのフルバトルを控えた前日のことだったか。
 トレーナーを引退し、研究者を目指すか否か悩んでいた僕のことを気にかけ、2人でディナーをしていた時にコノハが僕に向けて放った言葉だ。

(……もっと、自分の可能性を信じてみるとするか)

 ”向いているかもね”

 自分のことをよく知る幼馴染から、自分が想いを寄せる少女からそのようなことを言われると、それを真に受けてしまいたくなるらしい。
 僕は口元を緩めて、顔を上げる。視界に入ったのは、青空を飛ぶカモネギ。どうやらプテラの居場所がわかったらしい。その報告を受けた僕は、オーキド博士、ケンジと共にカモネギの後を追った。

 研究者として、プテラを知るために。プテラと心を通わせるために──




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