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□10話
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10 臨也視点
本を返却しに行った新羅が図書室でシズちゃんが公式を我流に変えてるって言ってたから思わず俺は足を運んでしまった。
多分新羅だと思ったのに俺が目の前に現れてイライラしてるようだった
シズちゃんの我流公式を見て本当は直ぐ帰る筈だったのにいつの間に彼の勉強を手伝うような真似をしてしまった。
手を焼きたかったっていうのかな。何だかほっとけないなと思った。
だから思わずポロっと家に泊まれよと言ってしまった。
その刹那、自分でも何でこんな事を言ったんだと思ったけど理由がなければ不審がられると思ってノートの話を持ちかけた。
ただの言い訳だからシズちゃんも怪しいと思ったに違いないけど。
それからシズちゃんが風呂に入ってる時にオムライスを二人分作った。
友達でも何でもない奴の勉強を教えて家に泊めて料理まで作る。
まるで気があるみたいじゃないか。
そう思ったら無性にシズちゃんに八つ当たりしたくなってケチャップででっかく「死ね」と書いてしまった。
それを風呂から上がったシズちゃんに、なに食わぬ顔で渡したら「誰がこんなの食うか!!」と激怒してしまった。
けれど俺がスプーンでケチャップを満遍なく伸ばして食えと言ったら最初は渋っていたものの「オムライスに罪はない」と言って5分で完食してしまったから笑うしかない。
「はぁー」
風呂のお湯に浸りながら俺は一人溜め息を零した。
シズちゃんは今頃リビングで俺のノートを書き写し中だろう。
まあそんな事はどうでもいい。
問題なのは俺の行動だ。
最近こうやって自らシズちゃんに関わるという事が多くなった。
何も嫌いなら自分から関わらなければいいのにと思いつつわざと彼を揶揄ってキレさせたり手助けをしている。
"心情は変わりゆくものだよ臨也。"
新羅に言われた言葉が頭をよぎる。
確かに心情は変わった。
でもだから何だというのだ。
少しシズちゃんが気になって手を焼くようになっても実際、日常的な喧嘩が無くなったり仲直りできる筈もない。
状況が一変するわけじゃない。
仮に俺がシズちゃんを嫌いじゃなくなってもだ。
だって彼は俺が大嫌いなのだから。
・・・・。やめた。これ以上考えたところで意味がない。
さっさと上がろう。
そう思って立ち上がるとフラっと眩暈がした。これは大分逆上せてるな。
バスタオルで身体を拭いてノロノロと着替えを済ませてシズちゃんのいるリビングに向かう。
「シズちゃん」
声を掛けたが反応がない。ペンを持ちながら寝ているようだ。
「シズちゃん起きて」
再度声をかけてみたがやはり返答がない。その後、大きく揺すったりバシバシ叩いたりしたが全くの無反応だ。
「・・・・仕方ない。このままにしておくか」
この熟睡状態ではきっと朝まで無理だろう。
そう判断して俺は毛布を持ってくると彼の肩に掛けてあげる。
流石、俺。超優しいなー。
そのまま俺も自分の寝室に行こうと思ったがふとシズちゃんの寝顔が目に止まってしまった。
眼光の鋭い目は閉じられた為かあどけない顔でスヤスヤと寝ている。
そのあまりにも無防備な姿に俺は口角を上げると、俺はシズちゃんに自分の顔をゆっくりと近づける。
「起きないとキスするよ」
無論、起きないと分かってて言った。
自分でも何て馬鹿馬鹿しい事をしようとしているんだという自覚はあるし度の過ぎた悪戯だと思う。
でも妙な好奇心が勝って俺はさらに顔を近づけた。
「しちゃうからね」
そう言って俺は自らの唇を彼の唇に重ねた。
・・・・・・予想以上に気持ちい。気持ち良さが不快感を上回ってる。
もう一回したい。
俺は一旦唇を離すと再び角度を変えて口付ける。
女の唇でもない自分の嫌いな男の唇が気持ちいなんて正気じゃない。
冷静にならなければいけない。
でもその反面、ずっとこのままでもいいような気がして仕方ない。
「んっ・・・」
シズちゃんの眉がぴくりと動き薄っすら目が開いたのと同時に俺は慌てて唇を離した。
そして起きるかと思いきやまたスースーと彼は寝始めた。
危なかった。
心臓がバクバクと脈打ち、冷静になったのか羞恥で徐々に顔が火照り始める。
そうだよ。気持ちいなんて馬鹿にも程がある。何やってるんだ俺。
その後、シズちゃんの顔をまともに見れなくなった俺はそのまま寝室に直行すると枕に顔を埋めてひたすら自己嫌悪を繰り返し、夜が更けていった。