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□11話
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11 静雄視点

ノミ蟲の家に泊まった次の日、俺はひたすら自分の頭を鉄パイプか何かで殴りたくなった。


というのもノミ蟲が俺にキスをしてくるというあり得ない夢を見たからだ。

しかもやけに生々しかった。

不思議と不快感よりもノミ蟲が至極気持ち良さそうな顔をしててそれが妙にエロかった事しか頭に残らなかった。


・・・そうだな、うんテスト勉強で疲れてるんだな。
きっとそうだ。
断じて俺が変態なわけじゃない。

俺は自分にそう言い聞かせてノミ蟲と一緒にノミ蟲が作った朝食をもぐもぐと食べた。

無論、顔なんて見れなかったし夢の事も話してない。

奴の方も俺と殆ど顔を合わせようとしなかった。


それから3日後に行われた期末テストはそれはそれはボロボロで特に数学とか白紙に近い状態だった。

テスト終了後、冬休みに指名補習で学校登校が決まった日には臨也に散々「俺が教えてやったのに」とぶーぶー文句を言われた。

恩着せがましい態度に多少イラついたものの暴力に発展する事はなかった。

そこでふと思った。

最近、奴と口論以外の喧嘩をした記憶がないと。

力のコントロールは出来ていないから必然的にあいつへの嫌悪感が減ったという事なのだろう。

ひょっとしたら入学当初から今までずっと門田と新羅に耳にタコが出来る程言われ続けた「仲直り」が出来るかもしれない。




《君は嫌でも孤独を強いられるんだよ》
《ハハッ。血の一滴も出ないなんて流石化け物。人間じゃない》




・・・・・・。

いや無理だな。

一瞬その可能性を考えたが、奴に言われた言葉を思い出せばやっぱり腹立たしくなった。


そして12月も下旬に差し掛かった頃だった。

俺が指名補習に呼ばれた帰り道、酷い大雨が降っていた。

幸い俺は傘を持ってきていたがそれでも革靴や鞄はかなり雨がかかって濡れてしまった。

住宅街を歩いていると家の軒先で雨宿りしている来神の女子生徒が目にとまった。

具合でも悪いのか酷い顔色だ。

俺は心配になってそいつに駆け寄ると持っていた傘を差し出した。

「え?…あっ...大丈夫です」

「やるよ。」

「でも.....」

「俺の事は心配しなくていいから傘持って早く帰った方がいい。」

「........。はい。ありがとうございます」

女子生徒はそう言って頭を下げると傘を持って去っていった。

その後、俺は雨に当たりながら帰ってきた。



それからクリスマスと元旦は何時ものように一人で過ごした。

壊れる寸前の安いエアコンのせいで室内は殆ど暖まらず、寂しいというよりも寒い思いをした。

特にする事のない冬休みもあっという間に終わればノミ蟲や門田、新羅と再び顔を合わせてまた日常に戻っていった。

そんなある日の事。

何時ものようにノミ蟲とくだらねえ事で口論をして学校を下校すると、俺のアパートの玄関前に赤と黒の紙袋が一つ置いてあった。


「…何でこんなもの....」

ひょいと紙袋を拾い上げる。
紙袋には筆記体でなんか文字が書いてあるみたいだがなんて書いてあるかさっぱりだ。
そして何が入っているのかも検討もつかない。

兎も角、俺は鍵を開けて家の中に入ると紙袋の中身を開けた。


「プリンだ・・・」

しかも何かカラメルソースみたいな奴が別容器に入っていた。
何だこれ絶対高いだろ。

食っていいのか?
.....いや知らねえ奴から贈られてきたもんを食うっていうのもな.....。いやこんなもん滅多に食えねえぞ。

俺はしばらく自分の頭の中で一人葛藤していたが、結局食う事にした。

尋常じゃない程美味かった。


多分どっかの専門店かなんかのプリンなんだろう。

一個400円と書いてあった。

礼を言いたいが、何処の誰だか分かんねえ。

あっ。
プリンを食いながら俺はカレンダーを見た。今日は1月28日。

「俺、誕生日だ」

なんだか凄くマヌケな気分になった。

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