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□16話
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16 臨也視点。
・・・退屈だ。
新学期が始まり、俺は無意識のうちにそう感じる事が多くなった。要因は分かっているし、こんな事で気持ちが左右されるなんて思わなかった。
俺の中でまたシズちゃんという存在が大きくなってしまったのだろう。嫌な事だ。
でもまあ学校の公共物を破壊している二人を去年同様同じクラスにする筈がないのだから離れるだろうなとは思ってたけど、こんなにも一日が退屈でつまらないものに変化するなんて想定外だった。
授業終了のベルが鳴る。
掃除の無い俺は今日もシズちゃんを揶揄いに教室に向かう。
だってつまらないんだ。
俺を嫌いな君には悪いと思うけど。
後少しで教室に辿り着くというところで俺はぴたりと足を止める。
放課後、日課のように彼を揶揄いに行く度、隣に俺が知らない女子生徒がいる事が多くなった。
くっきり二重に鼻筋が通り、ふっくらとした唇。ゆるくパーマがかかった茶色の髪。容姿は美人の部類だろうが、内気な性格なのか無口だ。
それでも時折シズちゃんと会話して屈託の無い笑みで笑う。
ああ、駄目だ。考えただけでもイライラしてきた。
シズちゃんが居なかったら帰ろう。
そう思うと2組の教室に設置されたベランダから俺は室内を覗き込んだ。
すると複数の女子が群れを作って、一人の女子生徒を虐めている光景が目に入った。
所謂いじめだ。
助けてあげようと思わなくはない。一言「やめろよ」と声を掛けたっていいと思う。
だが、今の俺にその気はない。
被害を受けている女子生徒は俺にイライラを募らせる原因そのもので今現在も暴行に歯をくいしばり耐えている。
悪いが俺はシズちゃんと違って善人じゃないのさ。
「おい、何してんだ」
教室内に響いたシズちゃんの声で暴行を加えていた女子生徒達がぴたりと動きを止める。
水を打ったように静まり返る教室に比例して心なしか俺の高揚していた気分も沈んだ。
皆、シズちゃんが並大抵の強さではないから反抗もしょうも無い言い訳もしないが、素直に謝るとも思えない。
しばらく沈黙が続いて、シズちゃんがはぁーとため息を吐くと「さっさと行け」とぼそりと呟いた。
その拍子に甚振っていた集団が一人また一人と教室から去っていった。
「大丈夫か?」
シズちゃんが手を差し伸べてる。俺はその様子に何故か目が離せなくなった。
心臓がハカハカする。
「ありがとう平和島君。」
差し出された手を取る彼女。
「怪我してんじゃねーか」
そう言ってシズちゃんの大きな手が殴られてあざになった顔に触れる。
「無理すんな、可憐」
・・・まただ。また名前で彼女を呼んだ。
可憐と呼ばれた女は少し俯いて「ありがとう」と再びお礼を言うが、きっと頬でも染めてるんだろう。
俺の事は名前で呼ばないどころか蟲扱いだというのに。
加えて優しく可憐の頭を撫でるシズちゃんを見ていられなくなって俺はその場を逃げるようにして立ち去った。
ここ最近ずっとだ。
シズちゃんがあの女を可憐と呼び捨てにするのも優しく接するのも俺がその度にこうやって逃げるように立ち去る事も。
自宅の玄関で乱暴に靴を脱いで枕に顔を埋めればハハッと乾いた笑いが溢れた。
少し油断していたのだ。
暴力を身に纏ったと言われる奴に近づく奴なんて俺か新羅かドタちんぐらいだったから。
まして女が近寄ってくるなんて思わなかった。
彼に人は寄り付かない。だから安心していた。
どんな形であったとしても自分は彼を独占出来る。
そう思ってた。
「あの女と付き合ったらどうしよう」
俺はぎゅっとシーツを握り締める。
あの女と一緒にいるようになってゆくゆくは付き合うようになったら、俺は彼にとって取るに足らない存在になるのだ。
今は大嫌いだと思っていても彼女を好きになって彼女に時間を割けば俺の事など通行人同様興味も無くなっていく。
そして、俺の知らない所で変わっていくシズちゃんをただ黙って指を咥えて見ているしか出来なくなるのだ。
そんなの嫌だ。
好きになってとは言わない。
けれど俺に無関心になるシズちゃんなんて嫌だ。
見たくない。
無関心になるくらいならいっその事
憎まれた方がいい。