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□17話
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17 静雄視点
突然朝礼前、奴が教室に来てにんまりと笑い俺の胸元にナイフを突き刺してきたのが始まりだった。
キレた俺は素手で窓ガラスをぶち破り、逃げたノミ蟲を追いかける。
最近、喧嘩が無くなってきたと思えばこれだ。
相手にしなければいい話だが、奴が発する言葉や薄っぺらい笑みが気に食わない。
今日も俺に向かっての第一声が「やあ化け物」だ。
もう一年も経ったんだ。記憶は一向に戻ってこないし奴の事は嫌いだが仲良くなる努力はしようと密かに思っている。
まあ努力はしたとしても実際成功する可能性は低いと思うがな。
・・・・。クソ見失った。逃げ足の速い奴。
教室の割れた窓ガラスを思うと俺は頭が痛くなった。また俺だけ怒られるのかと。
まあ割ったのは俺だが朝っぱらから人にナイフを突き刺してくる奴の事も叱ってくれないかと思う切実に。
「平和島君」
可憐が近寄ってくる。手の事を心配そうに聞いてきたが、俺の傷一つない手の平を見せれば安心したのかふわっと笑う。
可憐は本当に優しい奴だ。
ノミ蟲や周囲の連中と違って俺を化け物扱いしない。
何でこんな奴が虐められるのか分かんねえが出来る事なら守ってやりたいと思う。
そう思ってたら制服の袖口をクイっと引っ張られる。
「平和島君…あの…今日放課後空いてる?」
何時もより途切れ途切れに俯きながら話す可憐。きっと何かあるんだろう。
断る必要性も無いから俺は空いてると一言返すと、良かったと少し嬉しそうに答えた。
そして放課後。
俺は可憐に連れられて2階の空き教室にいる。
「こんな所連れてきちゃってごめん。ずっと言いたい事があったの」
ここに来るまで下を向いていた可憐だったが顔を上げて真っ直ぐな眼差しで俺を見つめる。
「平和島君の事…好きなの…だから...その...良ければ…付き合って欲しいの」
そう言った可憐の声は震えてて頬も真っ赤になっていた。
まさか告白されるなんて思ってもいなかったが実際されると純粋に嬉しかった。恐れられる事はあっても好かれた記憶などなかったから。
「俺はキレやすいし暴力を振って可憐に迷惑をかける。それでもいいのか?」
俺がそう言うと可憐は目を輝かせて「うん」と一言言った。
「凄く...凄く嬉しい。ありがとう」
「へぇー....。シズちゃん、彼女出来たんだ」
空き教室内にパチパチと拍手する音が聞こえる。
「ノミ蟲てめえ何の用だ」
「別にー。シズちゃんと彼女さんの幸せを心から祝福してあげてるだけ。可憐さんだっけ?」
そう言って近づいてくるノミ蟲から可憐を守る為、一歩前に出る。
「それ以上可憐に近寄るな」
俺はノミ蟲を睨みつけると、奴はスッと目を細めて所持していたナイフを俺の喉元に突きつける。
「何それ?告白されてすっかり彼氏気取りかい?」
「てめえには関係ねえだろ」
グリグリと喉元にナイフを押し付けてくる臨也に反撃したいが後ろに可憐がいる為、妙な事は出来ない。
そのままナイフで刺すだろうと思っていたが、奴は少しずつ俺との間合いを詰めていく。
「何する気だ?」
そう言いかけて奴の顔を見れば今まで見たことのない笑みを浮かべていた。
「君には俺がいるのにね」
けれども耳元で呟かれた言葉には何処か悲しみが含まれていて。
思わず目を見開いたのと同時にそれは起こった。
「いっ・・」
首元を刺され、出血はないが傷みを伴う。
「ハハハ。油断しちゃって。俺がそんな事言うわけないだろ」
ケラケラとまた何時もの表情で笑うノミ蟲を見てワンテンポ遅れて怒りがこみ上げた。
それを見た奴がまた愉快そうに笑うと「またねシズちゃん」と捨て台詞を残して去って行った。