ヒネクレモノ

□one
1ページ/2ページ

俺には密かに想っている先輩がいる。このコトは誰も知らないはず。

それは俺が入学して1週間くらいのコトだった。
昼休み、屋上で寝てた。春の風が心地良くてすぐに意識を手放す。どこか遠くで綺麗な声が聞こえてきた。なんていうの、透き通った声?
うっすらと目を開けると気持ち良さそうに歌っている女子が1人。俺に気付いていないのか歌い続けていた。
その人が歌っていたのは少し前に流行ったバンドの曲。春にピッタリの曲だった。ボーッと聴いていると女子が俺の方を見た。
目が合い、気まずい沈黙。数秒後その人は顔を真っ赤にしてしゃがみこんだ。俺は思わず駆け寄る。
「…いつからいたの?」
先程とは対照的なか細い声で聞いてきた。
「多分、ずっと」
そう答えるとますます顔を赤くして俯いた。
「…ナイショ、ね?」
俺と目を合わせるコトなくそう告げ足早に屋上を立ち去った。
俺はその場に座り込みさっきの歌を思い出した。
…また聴きたい。
しかし、名前も何も知らないのにそんなコトできるわけないか。俺はそう思いまた寝ようと横になった。
目を閉じるとさっきの歌が頭に流れる。
「…会いたいな」
ボソリと呟き意識を手放した。

その数日後、屋上で会った女子に購買で会った。
「あ、あの時の…」
俺がそう声をかければ恥ずかしそうに俯く。
「…誰にも言ってない?」
おずおずとその人は聞いた。俺はゆっくりと首を縦に振る。ホッと安堵の表情を浮かべるその人は少し可愛いと思った。
「アンタ、名前は?」
何と無く、聞いてみた。この人ともっと関わりたいと思ったから。
「2年の佐藤ナツミ、テニス部の越前君、だよね…?」
あっちは俺のコトを知っていたらしい。
「ふーん、先輩だったんだ」
俺が意地悪く笑えばナツミ先輩は少しムッとして俺を見る。
「ジョーダン、これからよろしく。ナツミ先輩?」

この日以来、ナツミ先輩とは話してない。あれから1ヶ月はたった。屋上に行っても購買に行っても。どこにも見当たらないのだ。こーなるならクラスも聞いておけば良かったと後々後悔した。
桃先輩に聞けば教えてくれるはずだ。けど絶対からかわれる。それだけはゴメンだ。他の先輩にも何か聞きにくい。堀尾とかなんてもってのほかだ。
「はぁ…」
部室で盛大なため息をつく。ナツミ先輩に会いたい。またあの歌を聴きたい。
「最近元気ないな〜」
上を見上げると桃先輩が心配そうに俺を見ていた。
「別に、何でもないッスよ」
素っ気なく返しテニスバックを持つ。それに続くように桃先輩もテニスバックを持った。

帰り道、なんとなくあの歌を口ずさんでいた。
「それ、古くねぇか?」
桃先輩は愉快そうに笑いながら俺の肩を叩く。俺はムッとしたが表情には出さないようにして答える。
「好きなんスよ、この歌」
そう言ってまた口ずさんだ。
「最近、ずーっと口ずさんでるよなぁ」
桃先輩はんー、と唸り考えていたが諦めたのかすぐに考えるのをやめていた。

俺が歌ってもなんか違う。ナツミ先輩が歌うからいいんだ。
「はぁ…」
今日、何回目かわからないがまた一つ、ため息をついた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ