それは必然で。

□ぜろ。
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「はい、ぼっしゅ〜!」
私はそう言って丸井からガムとお菓子を取り上げた。
「ああ!俺の〜!」
私は取られないように必死にお菓子を守る。いつの間にかお菓子を取り上げるのも私の仕事になっていた。
別に、嫌じゃない。むしろ楽しいからやりたいくらいだ。
取り上げたお菓子達をジャージのポケットにしまう。仄かにグリーンアップルの香りがした。

マネージャーの仕事は重労働だ。他の人よりも小さい私は尚更大変だった。まず、高いところにある物が取れない。これが1番辛かった。
他にも大変なコトといったらドリンクを運ぶ時だろうか。
カゴに何十本とスポドリの入ったボトルを入れてコートに持って行くのはキツかった。ヨタヨタしながら運んでいると後輩の赤也が走ってきた。
「ナツミ先輩!手伝うッス!」
ラケットを片手に持ったまま赤也は私の手からカゴを取る。
「サンキュー、赤也」
私は笑いながら赤也と目を合わせる。赤也は満面の笑みで頷いた。なんだろ、犬みたい。
いくら赤也でも全部持つのはキツイだろう。私はそう思いボトルを何本か持って歩いた。

ベンチまでドリンクを運び部員を集める。
「ほい、赤也。お疲れ様」
私は真っ先に赤也に渡した。さっきのお礼というコトで。赤也は顔を輝かせて受け取ってくれた。やっぱり犬だ赤也は。
次々と部員が集まってきた。私はテキパキとドリンクを渡していく。
「ほい、お疲れ様」
そう言って渡すのを忘れないようにして。一息ついた時仁王と丸井がやってきた。私は渡そうとしたが別なマネージャーが丸井達に渡す。
あー、なんか悲しいかも。
手に持ったドリンクを近くの部員に渡す。最近、丸井にドリンク渡してないな…。ふと、そんなコトを考えた。
「どうかしたかの?」
声がして顔をあげるとニヤリと笑った仁王がいた。正直、苦手なタイプだ。
「いーや?なんもねーよ」
私は笑顔を見せる。仁王はしばらく私の顔を見ていたが興味がなくなったのか柳生の元へ歩き出した。

朝練も終わり私は着替えようと部室へ行こうとしていた。
「ナツミ先輩!」
大きな声に思わずビビってしまった。
このヤロー、急にでっかい声出すなよ。
心の中で悪態をつきながら振り向く。
「フツーに聞こえてるっての赤也」
犬こと赤也が少し緊張した面持ちで私の前まで来た。真田に怒られるコトでもしたのかな…?なんて考えながら赤也の言葉を待つ。
「んーと…あー…」
いつもの元気はなく目を伏せている。
「…着替えてからでもいい?」
私がそう聞くと赤也は静かに頷く。
「じゃあ俺、倉庫で待ってるッス」
赤也はそれだけ言い残して走り去った。本当に何をやらかしたんだあいつは。

私は急いで着替えをすませ倉庫に向かう。そこで、足を止めた。ジャージに丸井のお菓子を入れたままなコトに気づいた。踵を返しジャージを取りにいく。
部室を開けるとシーンとした嫌な空気が張り詰めた。
「忘れ物したわ〜」
軽く笑いながらジャージからお菓子を取り出す。後ろから嘲笑というのだろうか、そんな感じの笑いが聞こえてきた。
こーゆーコトには慣れてる。てか、2年間耐えてきたし。今更嘆いたって仕方ない。
「んじゃ、お先〜」
そう言って部室を出た。私が出た瞬間、楽しげな笑い声が溢れた。
「ばーか」
誰に言ったのかわからない。

今度こそ、私は倉庫に入った。
中は灯りはついておらず薄暗かった。
「ナツミ先輩…」
赤也は私を見てキュッと口を結んだ。
「んで、どーした?」
私は単刀直入に聞いてみた。グダグダ話している時間もない。
「俺、先輩と…」
赤也はそこでふぅと息をつく。私はただジッと待った。
「先輩と、遊びに行きたいッス…」
「へ?」
改まって何を言うかと思えば…。
私が口を開いた瞬間、何ともマヌケな声が聞こえてきた。2人で顔を見合わせて小さく笑う。
外に出て見ると目を丸くしている丸井と不思議そうな顔をしている幸村がいた。
「なに叫んでんだよー」
私はおもわず笑ってしまった。丸井は少しムッとしたような顔でこっちを見ていた。
幸村は何が何だかわかっていないみたいで少し面白かった。
「いつから、いたんスか」
赤也の声がいつもと違う気がした。いや、さっきもおかしかったけど。
「ついさっきだよぃ」
丸井はふいっと視線を逸らす。嘘ついてんのバレバレだろ。そう思ったけど言わないでおいた。
フワッと風が吹きグリーンアップルの香りがした。丸井にお菓子返してないや。
「そだ。ほい、ガム」
私はガムとチロルチョコを投げた。丸井は片手でそれを取る。ちなみにチロルチョコは私のだ。何と無く、チロルチョコも一緒に渡している。なんか理由があったよーな気がする。丸井と目があい、おもわず笑みがこぼれた。
「赤也、さっきの話いいよー」
私がそう言うと赤也の周りの空気が柔らかくなった気がした。
「あと適当にメールちょーだい」
私は皆に軽く手を振りその場を後にした。
急いで数学の宿題うつさないと。
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